『ヘルドックス』を観る。原田眞人監督による深町秋生の小説の映画化。岡田准一主演のアクションで、坂口健太郎がイカれたバディというからにはキャラクターの立ちだけでも楽しみというものだが、これが面白い。冒頭、熱帯アジアの辺境を思わせる日本の片田舎、養鶏場に現れた追跡者が命のやり取りの果て、フレーザーの金枝篇から「静かなる鏡のごとき湖が眠れるアリチアの森」と口ずさむのである。その違和感にフックがあって、これがそのまま「王殺し」の予告となっているのだから、まぁ、面白くならないはずがない。ロケーションもいちいち凝っていて、最終盤の舞台となる廃ホテルにはThe Golden Boughという看板が残っている。主人公の兼高がたびたび「闇の奥」というのは、もちろん『地獄の黙示録』の原作となったコンラッドの小説を引いているのだが、カーツ大佐の愛読書が『金枝篇』ということでモチーフは円環をなし、この物語が狂気の王国の遡行であることを暗示する。深町の原作は三部作なのだが、この調子で映画もトリロジーにしてもらえないだろうか。最高。
原田眞人監督は岡田准一主演で『関ヶ原』と『燃えよ剣』を撮っているのだが、どうしてか未見なので、これは観るつもり。