タイガー&ドラゴン

Netflixで配信の始まった『タイガー&ドラゴン』を何となく見始めて、やはり滅法面白いので止められなくなっている。これも2005年のドラマだと思うと、時の速さに震えるしかないのだけれど、16年後の2021年、宮藤官九郎、磯山晶、金子文紀のチームが長瀬智也を主人公として『俺の家の話』を作ることになった歴史的経緯を踏まえると感慨は一層、深い。そして、この15年後、この林家亭どんつくが新垣結衣と結婚することになろうとは、何人にも予想できなかったはずである。

それはともかく以前、全話を踏破したのは15年も前になるのだけれど、どうやら社会の価値観も微妙にアップデートされているところがあって、タバコや暴言の内容には時代を感じる。しかしこの作品自体、古典落語のようなもので、再読に耐える面白さがある。

ゾッキ

『ゾッキ』を観る。舞台となる蒲郡市出身の大橋裕之の漫画が原作。竹中直人、山田孝之、斎藤工が監督を務め、ほとんど友情出演かという役回りもあるとして豪華なキャスティングがされている。吉岡里帆は開巻、牛乳を吹き出すために登場したのかと疑ったがエンディングにも一応、貢献しているといった具合。個人的には『書けないッ!?』で空くんを演じた潤浩が出ているのがうれしい。

全体に、思わせぶりに登場させた要素を物語の後段で回収するドラマの動作を面白味としたような話で、エピソードで分けられた共同監督作品としての狙いでもあるだろう。監督3人はこの映画の制作をドキュメンタリーした『裏ゾッキ』という別作品に出てくるという仕掛けだが、途中からは新型コロナウィルスの感染拡大によって被った影響が記録されているということであれば、こちらも観てみようかという気分になっている。

ガンパウダー・ミルクシェイク

『ガンパウダー・ミルクシェイク』を観る。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のネビュラことカレン=ギランが主人公の殺し屋を演じているアクション映画で、銃器持ち込み不可のダイナーとか武器を融通してくれる図書館とか『ジョン・ウィック』にちょっと似た世界観が構築されている。理不尽な世界に抗い、粗暴な男どもをぶち殺そうという趣向の話。敵対組織のボスの血縁を殺してしまい、大部隊の襲撃を受けてこれを返り討ちにするストーリーはもはや定食化されているという他ないが、主人公を助ける女優陣がとにかく格好いいので目論見は概ね達成されているのではなかろうか。悪くない。

『どうする家康』を観る。初回で瀬名と結婚という早送りの展開には驚いた。『鎌倉殿の13人』とは明らかに異なる演出方針は、しかし古沢良太の脚本のトーンには合致しているということであろう。CGを多用した画面は新たな試みでもあるのだろうけれど、伝統的な大河ファンはびっくりしているのではなかろうか。

アトミックノート

まだまだ開発途上にあるHeptabaseだけれど、先月のアップデートでPDFファイルをカードとして使えるようになったのに加え、LogseqかLiquidTextみたいにハイライトを扱える機能が追加されて、PKMツールとしての実用度は一段と上がった印象。もともと堅実に動くアプリなので、そろそろ本格的に運用してみようかという気分になっている。このアプリが提案するように、いわゆるアトミックノートのデジタルツール上のメタファーは、ノートにあらずカードだろうと思うのだけれど、そういうツールは案外、少ないのである。

NOPE

『NOPE / ノープ』を観る。ジョーダン=ピール監督の三作目で『ゲット・アウト』と同じくダニエル=カルーヤが主演している。例によってM=ナイト・シャマランっぽい不可思議を扱った映画だけれど、構造的な支配や抑圧とその可視化を強くイメージさせる内容になっている。この災厄は「見ない」ことによって当面をやり過ごすことができるのだが、これをどうにかして撮影しようとするあれこれがストーリーの主軸にある以上は、見るなの禁忌の話というのとも少し違う。監督がコロナ禍に起きた事件に着想を得たという通り、ジョージ=フロイド事件の状況が撮影されたことがBLM運動拡大の契機となったことを念頭に置いているのであろう。あの事件の映像自体、システムとして組み込まれた差別を可視化したという点でImpossible Shotだったのである。

付け加えるならば、ジュープを演じるのがアジア系のスティーヴン=ユァンであるというというのにも意図を読み取らざるを得ない。

全体に通底する構造差別への批判的な眼差しを読み解くのも興味深いのだが、冒頭近く、「靴が立つ」という偶然を切り取ったカットの構図の妙は、全体的にレイアウトが優秀なこの映画でも白眉と言えるだろう。これをある種の啓示だと考えてしまった劇中のジュープの誤読に納得できるくらい、異様さの際立つシーンだったと思うのである。そしてバイクでのスライディングブレーキという『AKIRA』へのオマージュシーンもほぼ完璧な構図で、ジョーダン=ピールと撮影のホイテ=ヴァン・ホイテマの仕事のレベルの高さには唸る。

ドナドナ

新年も明けたばかりだというのに、唐突に断捨離の発作があって、このところ見直していなかった本棚の再構築に取り組む。とはいえ、最近は電子書籍にシフトしてしまっているから、横積みの本を整理するという感じでダンボール5箱分を買取に送り出して、だいぶすっきりする。

COVID-19の感染拡大は特に帰省先となっている各地で過去最高を更新し、1日の死亡者も過去最多を更新したようだけれど、医療現場の逼迫もほとんど無視の構え。この認知の歪みは、新たな厄災の原因となる気がする。

20世紀のキミ

『20世紀のキミ』を観る。90年代を懐かしむ趣向の韓国ドラマは今や一大ジャンルを形成していて、これもそのひとつ。最近の作品では『二十五、二十一』があるけれど、IMF危機で大きく社会が変わった経験というのがノスタルジーをことさら刺激するのだろうか。本作は1999年が舞台になっているにもかかわらず経済危機の雰囲気は感じないものの。話は、それこそちょっと古典的な感じの恋愛ドラマで、友情と恋愛の間で葛藤する少女をキム=ユジョンが演じ、ストーリーを陳腐にしない表情の演技が素晴らしいので感心しながら観てしまう。現在時間を別の役者が演じるというのが作法のようになっていて、こちらをハン=ヒョジュが演じているのだけれど、これまた適役で難しい結末を茶番にしていないと思うのである。運命とすれ違う話は時々あるけれど、収まりがつくものは少ない。

Rebuildの今年1回目の配信を聴く。Twitterで行われている蛮行についてのエンジニアリング観点からの感想が興味深いのだが、英語圏のユーザーの離脱が明らかな趨勢として起きており、観測範囲で残存しているのは、日本人8に対してアメリカ人2くらいの比率になっているという話には驚く。メディアとしての価値は既に死に体と言ってよく、このサービスが2023年を乗り切ることはないのではあるまいか。オフィスの賃借料さえ滞っているようだから、日本のローカルSNSとして生き残るのも難しそうである。何よりバランスシートの中身が悪過ぎる。

そのカルフォルニアでは今後、数日繰り返し大雨を降らせるだろう太平洋上のbomb cycloneへの警戒が強まっている。これもあまり聞いたことがなかった気象の動きだけれど、気候変動の振れ幅は一層拡大する、その過程にある。