いちげき

NHKで正月時代劇の『いちげき』を観る。小説『幕末一撃必殺隊』を原案とした漫画『いちげき』をもとに宮藤官九郎が脚本を書いたという話だけれど、いちばん面白味があるのは六代目 神田伯山の語りの部分かもしれない。薩摩藩士による御用盗を成敗する非正規部隊という設定はいいとして、リアリストの勝海舟も赤報隊の相楽総三も今ひとつ話の奥行きに貢献していない感じがあるし、話の運びがぎこちないところもあって、もしかしたら90分の尺では短過ぎたのではなかろうか。一撃必殺隊の訓練期間を強引に短縮するというエピソードが入っているけれど、脚本家の体験が反映されていると見えなくもないのである。

染谷将太と松田龍平、伊藤沙莉といったメインキャストは期待通りの役回り。尾美としのりが出演しているあたりに宮藤官九郎っぽさを感じる一方、仁田忠常もとい高岸宏行が出演しているのは新鮮。全体に原作よりも明るめのトーンとはなっているはずだけど、時おり覗く絶望と理不尽な命の遣り取りの感じは悪くない。

哭悲

『哭悲 THE SADNESS』を観る。新型感染症が蔓延して久しい台湾で、どうやら変異したウイルスが人々を凶暴化させ社会機能は崩壊に向かう。市街地の狂乱をサバイバルするのが物語の眼目ということになるのだけれど、このゾンビが粘着質で、知能を保持しながら主人公を執念深く追いかけてくるあたりが目新しい趣向で、グロテスクなシーンには、ある種の独創性があると見えなくもない。監督はカナダ出身なのでこの残虐性がアジアに根付く何かというわけではないとして、商業的な成立には独自の目盛りが設定されているのであろう。全体としてそれほどお金がかかっているようには見えないけれど、何しろスプラッター描写に手を抜いたところがないので何だか見入ってしまう。そういう訳だから、解決とか勝利とか救出とか、生ぬるいドラマが介在する余地がないもむしろ美点ということになる。もちろんR18+で、新年早々という気分はあるとして。

ナイブズ・アウト グラスオニオン

あけましておめでとうございます。

この年はものごとの決定力が市場から政府へ移る、今後の趨勢がいよいよ明らかになってくる年になるだろう。国際政治においても同様となれば、我が国の相対的な弱体化はますます進むに違いないのだが。

『ナイブズ・アウト グラスオニオン』を観る。遺産相続にかかわる屋敷ものだった第一作に比べると雰囲気はガラリと変わり、時節もパンデミックを踏まえてセレブたちの事件という設定だけれど、ギリシアを舞台にした孤島ものであり、倒叙的な解明が物語的な面白味になっているのも同じで、ミステリとして本格的な仕様となっている。評判の高かった前作の続編であることがはっきりとわかるのが、そうした背骨の部分だということが、かえって脚本の質の高さを証明してると思うのである。

その監督・脚本はかつて『BRICK』という名作をものにしたライアン=ジョンソンで、知らない間に『スターウォーズ / 最後のジェダイ』でも監督・脚本をやっているみたいだけれど、こういう脚本を書いて、監督までできる人間はそうはいないのではなかろうか。ダニエル=クレイグが演じる探偵ブノワ・ブランの同居人にヒュー=グラントが顔を出し、世界観は着々と広がっている様子なのも嬉しい。さらなるシリーズ化も期待できると思う。そして、久しぶりにケイト=ハドソンが出演している映画を観たけれど、元気そうで何より。