硬直性

買い物に出かけると容易に気がつく通り、さすがの日本の店頭価格もあれこれと上昇を始めていて、セブンイレブンのソースもんじゃまで大幅な値上げが行われていたりする。ついにデフレの時代も終わるのかという期待はあるとして、全体的な賃金の上昇が始まらなければ、インフレ期待が高まるところまで辿り着くことはないであろう。

結局は新陳代謝が行われず、非正規化という低コストの奴隷労働へのシフトで延命してきたアンシャンレジームが、ただ継続するために賃金上昇の可能性を食い潰してきたことが30年にわたる停滞の実相ということになる。消費税によって消費サイドへのインパクトが度重なったことが駄目を押し、その搾取システムが円の信認を維持してきたという構造の問題であれば、モノの価格が多少上がったところでデフレを脱却したということにはならないという日銀の見方は妥当ということになる。その状況に対して、金融政策は無力だったという総括をしているに等しいが、もちろんその自覚はあるに違いない。

山場

引き続き『イルタ・スキャンダル』を観ている。今週で14話まで来て、残すところあと2話。ツンデレ系列のラブコメとして進んできた話は、ここにきてサスペンスの色合いを濃くして、すべての不穏な人間関係が破綻に向けて転がる。途中で死人が出ているあたりでその予兆はあったとして、ここまで事件側に話を振らなくてもいいのではなかろうか。チ室長のキャラ変はこのシリーズ随一の見どころであろう。

そういえばこの前日、渡世の事情があって市が主催している研修会に出席したのだけれど、入場時の検温はあったとして、中規模の会議室にそれなりの人数を押し込めるスタイルで、換気にもそれほど気を遣っている感じがなかったので驚く。そういえばここも自民党の市政となっていて、規制緩和に向けて邁進する気らしいが、人間の思惑がどうであろうと、条件が揃えばウイルスは道を見つけるであろう。

屋根裏のアーネスト

『屋根裏のアーネスト』を観る。古い屋敷に引っ越してきた家族が屋根裏に出没する幽霊をYouTubeに投稿して騒ぎとなる。『ハッピー・デス・デイ』のクリストファー=ランドン監督なので、ジャンル映画といっても変格方向に力があって、展開に工夫があるので飽きない。CIAが平然と国内事案に顔を出して話を盛り上げたりするのだが、主軸は家族の物語で脚本の出来はいろいろ悪くない。主人公のジャヒ=ディアロ・ウィンストンだけでなく、ヒロイン役のイザベラ=ルッソの個性も好ましくて結構、面白いのである。悪くない。

ザ・ロストシティ

『ザ・ロストシティ』を観る。このテの冒険譚が隆盛を極めた時代もあったけれど、今さらサンドラ=ブロックとチャニング=テイタムでロマンスを作ろうという発想に不思議を感じる。何しろ、大して面白い脚本でもないのである。笑いどころはブラッド=ピットが全て持っていき、もちろん友情出演の範囲なので、残りはむむむという感じ。サンドラ=ブロックとブラッド=ピットも、もう60近いと考えれば一定の感慨はあるとして。

この日、カンボジアで鳥インフルエンザに罹患した少女が亡くなり、十人以上の感染が確認されWHOが警告を発したという不穏なニュースが流れる。既に人から人への感染が起きているということであろう。そして鳥インフルの死亡率はCOVID-19の比ではないのである。コロナからこっち、あらゆる感染症が新しいステージに入っている気もするけれど、かなり痛めつけられている人類の免疫系はこの先も古くて新しい脅威に曝されていくということであろう。

リエゾン

Apple TV+で配信の始まった『リエゾン』を観る。ヴァンサン=カッセルとエヴァ=グリーンによるスリラーというだけで、ちょっとワクワクしてしまうのだが、金を惜しんだ様子がない画面で話はぐいぐいとすすむ。主演の二人の佇まいはとにかく絵になる。暴風雨のなか、何やら因縁めいた過去が顔を覗かせるクライマックスの雰囲気もかなり好き。毎週1話配信というペースのようだけれど、これは楽しみ。

ロシアがウクライナに侵攻して1年が経つ。もう1年かと思えば、このところ時間の経過はますます加速しているような気がしてならないけれど、この事態について何らかの収拾に向けた先行きは変わらず見通すことができない状況にある。

バイナリ

ファイルをバイナリ化して動画にすることでYouTubeを容量無制限のストレージとして使うための実験的なツールが公開されたという記事を読む。規約の隙間をハックすることによる無限ストレージの試みというよりは、単にバイナリ化と復号の技術検証というようなものだと理解したが、そうしてバイナリ化された動画の映像そのものは、いわゆる砂嵐となるはずである。つまりそれは『リング』における呪いのビデオテープのようなものであって、次のPCにコピーしなければ1週間のうちに動作する貞子ウイルス入りのバイナリが配布されるのも時間の問題という気がする。

鬼に金棒

この日、NHK朝ドラの2024年前期の主演が伊藤沙莉であるということが発表される。『虎に翼』というそのドラマの、脚本は吉田恵里香ということなので期待は高まる。このところNHKの朝ドラを観る習慣もなくなってしまっているのだけれど、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子をモデルとして、法律と裁判そのものを題材にするらしいので、朝ドラのいつものフォーマットから逸脱して、それどころか現代的な課題への異議申し立てにつながる話だって可能なのではなかろうか。