Therefore

ク=ビョンモの『破果』を読む。韓国の小説がこのところの好みで、かの国の風俗を反映して匂い立つ韓国文化の雰囲気がいい。本作もはじめから生活を感じさせる密度の濃い描写が続くのだけれど冒頭、「つまり」と始まる文章は格調の高さにも年季が入っている。いやしかし、フランス現代思想じゃあるまいし。

45年間のキャリアを持つ女性の殺し屋が主人公という設定に惹かれている。月末に配信がある『キル・ボクスン』がちょうど殺し屋の話で、チョン=ドヨンのイメージで読み始めたのだけれど、違うわな。

前夜

SVBを飲み込んだ波は、もともと健全性が疑われていたクレディ・スイスの経営を直撃して市場の動揺は続く。大き過ぎて潰せない類の存在ではあるものの、その巨大さ故に簡単に片付けることもまた、できないはずである。この状況がインフレと中央銀行との戦いに水を差すようなことがあれば、その影響はより深い傷を残すことにもなるだろう。

パンデミック、インフレ、金融引き締め、戦争、米中対立に加えて金融危機である。この10年はどうしたって暗い陰とともに語られると思うのだが、市井の生活というのは歴史的な波にも漂うようにして案外、普通に送られるものである。少なくとも今のところ。

GPT-4

噂の大規模言語モデルが発表されて、各方面に波紋を起こしている。推論についての能力も大幅に拡張されて、GPT-3.5のレベルでも十分に驚いていた世間を震撼させている。ほんの数ヶ月前、このような展開を想像していた向きはなかったのに、今やあらゆる方面でこの能力をどのように引き出すかと競っている状況だから、恐るべきインパクトをもたらしたのは事実なのである。

ツールとしては、粗く書き始めるために使うというのがいちばん、効果的であろう。白紙の原稿用紙を前に呻吟するという状況そのものが、過去になる日は近い。何しろ、Office Suiteにこの機能が組み込まれるというのだから、文章の記述という概念そのものがAIとの共同作業を指すことになるだろう。そして言語やアイディアというのは、本来そのように機能すると思うのである。

ザ・リクルート

そういえばチェックしなければならないと思っていた『ザ・リクルート』を見逃していたということを思い出して、その第1話を観る。新卒でCIAの法務部に入局した主人公が新人イジメみたいなクレームの調査から国際的なスパイ活動をめぐる秘密の一端を垣間見ることになるという筋書きからは、この面白さは十分に伝わらないのではなかろうか。いや、面白い。

主人公のオーウェンを演じるノア=センティネオの垢抜けない感じと、間違っているようでそれなりに正しいルートを選んでいるヒーローものの背骨、変人揃いのCIA、テンションを殺さない演出が、絶妙なバランスで話を運んでいくので飽きない。第1シーズンは全8話のようだけれど、これは続けて観るつもり。

再発

かつてOfficeと名乗っていたiPad OS用のクライアントが、最近のリブランディングを経てMicrosoft 365という呼び名に変更され、内部的にはWordだのExcelだのが普通に使える感じなので、Wordはいったん削除してこれに一本化しようと思っていたわけである。

かつてiOS版のWordには和文の中で英字フォントをうまく扱えずに水平方向を圧縮してしまうという不具合があって、2バイト圏ユーザーの悲哀をいまさら感じることがあったのだけれど、しかし、いつの間にか直ったと思っていたその不具合が復活している。これが修正されるまでには、また幾つもの夜を越えなければならない。いやはや。

Wordle

こつこつ習慣化するのが好きな方なので、一世を風靡したWordleも特に意味もなく続けているのだけれど、New York Timesに買収されてからページ上部に配置されるようになっていた広告は数ヶ月前から空看板となって、このゲームの人気の凋落と忍び寄る景気悪化の気配を感じさせる。実際のところはよくわからないけれど、クオリティペーパーの広告ともなると、ただ表示させるという訳ではない基準があるのだろう。

このところは当地もだいぶ気温が上がって、日中は春の陽気。東日本大震災から12年のこの日、もちろん震災にまつわる情報がいろいろと伝えられ、否応なくあの頃を思い出す。M9という途方もないエネルギーの放出となった地震をもう一度、体験することになるかはわからないが、原子力災害という人類の愚かさは本日現在、ザポリージャ原発での6度目となる外部電源喪失によって繰り返されつつある。本邦では廃炉の工程表に時間軸を書き入れることが、ほとんど諦められつつあって、封じ込めどころか溶け落ちた炉心の状態さえ把握しかねているというのに、原発を再開して60年を超える原子炉の稼働さえ認めようというのである。人間を滅ぼすのは間違いなく人間だろう。