非常宣言

『非常宣言』を観る。ソン=ガンホとイ=ビョンホンのダブル主演による航空パニック映画。チョン=ドヨンが国土交通省の大臣、バイオテロを実行するちょっとサイコな犯人をイム=シワンが演じており、その構えは韓国映画においても大作というべき作品であろう。

冒頭の空港シーンはドキュメンタリーっぽい空気の演出なのだけれど、その質感がエアロゾルで感染すると思しき「ウイルス」の不穏な描き方に繋がっていくあたりが見どころ。しかし、実を言ってそれがウイルスであれば目視できるはずもなく、「粉」として描かれる場面もあって謎は深まる。機内に広がる咳が不安を煽るあたりはいいとして、パンデミックの時代の映画にしてはバイオハザードの扱い方は少し雑という気がする。『FLU 運命の36時間』あたりから、進歩している形跡がほとんど窺えないのである。

とはいえ、舞台となる旅客機の離陸に合わせて展開する前駆的事件の発覚や、緻密な飛行準備段階の描写から、離陸しゆっくりと上昇していくボーイング777の姿といった前半の演出は定石を外さず、なかなか見応えがある。

後半も悪くはないのだが、日本との緊張関係を前提にした演出は仕方ないとして、乗客の自己犠牲の精神が発露する展開はちょっとやりすぎだし、ソン=ガンホは見せ場を作りすぎというものではなかろうか。

ブレット・トレイン

『ブレット・トレイン』を観る。伊坂幸太郎の『マリアビートル』を原作にしているという触れ込みだが、製作・監督のデヴィッド=リーチはかなり自由に脚色を加えていて、ジョー=カーナハンの『スモーキン・エース』みたいになっている。まず、そこがいい。日本高速電鉄が運行するブレット・トレインゆかりが疾走する日本のイメージも、悪夢世界じみていて楽しめる。非常ボタンを押すと走行中にドアが外れて飛んでいく仕様だったりして、何かと自由なわけである。

日本を舞台にしているにもかかわらず、外国人ばかりがキャスティングされているということでホワイトウォッシングだという批判もあったようだけれど、ブラッド=ピットが主演である以上は当然、このようになるだろうという気がしなくもない。

球状閃電

『死神永生』を読んでいるときから、『地球往事』三部作を読み直さなければならないと考えてはいたのだけれど、そのボリュームの前に果たせずいるうち『三体0 球状閃電』を読む。『三体』の前日譚という触れ込みで葉文潔の娘、楊冬の恋人 丁儀が登場してボールライトニング現象の謎を解明する。

もちろん、続く『三体』ほどのスケールの大きさはないとして、物理理論そのものを題材とする劉慈欣の語り口は後と同じくスリリングで非常に面白い。三部作とあまり関係ない話のように見えて、観測者問題をこのように扱うだけで三体世界そのものを現出する作家の力量は並外れている。

ディストピア

この日、マイナンバーカード法案が衆議院を通過する。つい最近、全ての銀行口座をマイナンバーに紐づけるという発言があったところをみても、いわゆる国民背番号制は着々と進む。同時に、健康保険証との一体化によって国民皆保険も事実上、5年ごとの申請制となる。日本のディストピア化もいよいよ新章というところだが、既にロクな報道もされないという状況なので、これからは国民にとってはほぼ便益が感じられない筋の話こそ、勢いを増していく。その極北に緊急事態条項があるだろう。

辻褄

NHKのローカルニュースを眺めていると、この地方のコロナ対策が5月8日の5類移行のあと、どうなるかという話題をやっている。あれこれの数値とそれが示す実態が不明となることや第9波は第8波よりも大きくなる可能性があるという見通しが紹介され、他方で、行政はこれまでの最多と同じレベルである758人の入院患者に対応できるようにすると目標を語る。識者が登場して、感染予防より医療アクセスが重要になると言うのだが、いや待て、第9波がこれまで最大となる前提で入院できなくなる可能性が語られているのである。

この短いコーナーの中ですら辻褄を合わせることができない状況を迎えようというのが、つまりこれからの混乱を予告していて、科学の方法を逸脱した政策意思こそ、その原因であるだろう。

Notion

もちろんNotionは使ったことがあり、アーカイブに属するメモのようなものを溜める用途でたまに運用していたのだけれど最近、何となくしっくりとくる使い方が判明して、主線級に昇格している。いわゆるプロダクティビティツールにあれこれ投資するのは慎もうという気運が高まっていたのだが、そうなるとあれこれ放り込みたくなるというのが人情というもので、大きめの資料ファイルをアップロードしたというニーズでこれを課金してしまう。いや、Notionの設定なら無料版でも十分使い込めると思うのだけれど。

問題は追加の課金設定となっているNotion AIで、インラインで利用できるところはいいのだけれど、性能はそこそこでChat GPTと合わせると月額30ドルの課金になるので躊躇している。まるでプロダクティビティマニアでAIマニアのような振る舞いではないか。

宇宙戦争

イギリス製のドラマシリーズで『宇宙戦争』を観る。H=G・ウェルズのあまりにも有名な原作をもとに、2019年には二つのドラマシリーズが作られているらしいのだけれど、こちらは現代劇として構成されたもので、最近まで3シーズンが制作されているみたい。全24話。フランス語のパートがあったりして、War of the Worldsという雰囲気がなくはない。しかし、第1話のラストで謎の攻撃があって、多くの人が死んだ後はディストピアSFみたいな感じに物語は展開する。これはどこに向かうのであろうか。

一方、もうひとつの方のドラマは、20世紀初頭のロンドンが舞台で伝統的なトライポッドも登場する正統派の『宇宙戦争』みたいなのだが、評判は今ひとつのようで二の足を踏んでいる。確かに新機軸がなければ、ハードルもおのずから上がると思うのである。