要約

ChatGPTの優秀さは今さら言うまでもないのだけれど、ちょっと長めの文章を要約させては感心している。近ごろ、CNNで伝えられた海洋の深層循環についての記事は、例えば以下のようになる。

南極の氷の融解により、海面上昇だけでなく、深海水の循環が遅くなることが分かり、地球規模の気候と海洋生物に大きな影響が予想される。この研究は、豪ニューサウスウェールズ大学の科学者らが主導し、ネイチャー誌に掲載された。循環が遅くなると氷の融解が速まり、海洋システムが崩壊する恐れがある。南極の深層循環は、栄養分を含んだ海水を南極から北へ運ぶ重要な役割を果たし、大気中の二酸化炭素を隔離する役割も担っている。研究によれば、南極周辺の密度の大きい海水の沈み込みは50年までに4割減少し、海面の生産性に影響が出るとされる。また、南極の深層循環の遅れにより、熱帯地方の降雨帯が最大1000キロ移動する可能性もある。この研究結果は、国連気候変動政府間パネル(IPCC)の予測にも影響を与える可能性がある。

– ChatGPT (GPT-4.0)

このケースのモデルはGPT-4.0を使っているけれど、そこそこの長文を、惚れ惚れするほど端正な帰納的構成で要約してくれるのである。原文では論文著者が、IPCCの予測が南極棚氷の融解を踏まえていないと指摘しているとあるのだけれど、これを引いて「予測にも影響を与える可能性がある」という要約を、どれほどの日本語話者ができるだろうか。

ところで、南極の棚氷の融解が熱塩循環に影響を与えることは『デイ・アフター・トゥモロウ』が題材にしているのだけれど、IPCC予測がそれを織り込んでいないというのには驚く。この日、あの映画と同じく、メキシコ湾の湿潤な空気の影響を受けてアメリカ中西部に幾つもの巨大な竜巻が発生し、多数の死者が出たことが伝えられていればなおさら。

イニシェリン島の精霊

『イニシェリン島の精霊』を観る。『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーの監督・脚本作品。アイルランドにある荒涼とした孤島での二人の些細な諍いが、ついにはどこか、かの国の内戦を想起させる衝突に向かう。画面には老婆の姿をした死神が徘徊し、唐突で、しかし確固たる意思にもとづく暴力が人を傷つけていく。その騒動を動物たちは静かに見守って、全体に神話的な雰囲気が色濃くなる。

コリン=ファレルとブレンダン=グリーソンが、それぞれの頑なさと執着で押し問答をしているだけの話が、もちろんそれだけにとどまらないのがマーティン=マクドナーの映画というものである。本作はもともと、先行する舞台劇の続きとして構想されていたという話だけれど、水平的な島の風景は映像としてもなかなか見応えがある。