『死刑にいたる病』を観る。死刑囚が数多の悪行のうち、自分に身の覚えのない事件の解明のために探偵を依頼するという話はいくつもあると思うけれど、阿部サダヲのレクター博士は説得力があって全体にキャスティングは悪くない感じ。折り返しで物語が転調した以降が面白いのだけれど、冒頭あたりの残虐な場面には、どうしてR15でなくPG12なのだろうかという気がしなくもない。法廷の場面に阿曽山大噴火がいる芸の細かさだが、ラスト20分に流れ込んでいく全体の作りはよく出来ている。しかしこの話、最近あった事件を思い起こさせるところがあって、ちょっと慄いている。
Month: June 2023
梅雨
この日、関東甲信地方が梅雨入り。話を合わせるかのように、夕方から雨が降り始め、夜にかけて強さを増す。南方に発生した台風3号が梅雨前線を刺激し来週にかけて降雨の強まりが予想されているけれど、何しろ気候変動の時代だから災害レベルの動きになっても驚かない。カナダでは大規模な山火事が発生してニューヨークの空がオレンジの世紀末的様相を呈していることが伝えられる。
入管法改正案は参議院の法務委員会で可決し本会議で成立の見通しとなる。このような理不尽は抑圧的であることを自覚し、収奪的な権益の維持を重視する政治体制において歴史上も繰り返し再現されてきたが、結局のところ軽視されているのは国民の人権そのものでもあって、その軒先はすでに焼け落ちた。
MKBHD
Vision ProについてのMKBHDのYouTubeビデオを観て、あの奇怪なヘッドセットが見かけ通りに重いことは確認できたけれど、アイトラッキングやインターフェイスデバイスとなる手の動きのセンシングは驚嘆すべき出来栄えらしいので、やはりちょっと気になっている。コンピューティングの体験は、この製品によって再び大きく変わるのだろうか。そうであっても不思議はないのだが、やはりもう一段のイノベーションがあって欲しい気がする。目隠しの上に貼られた外向きのディスプレイなど、スマートというより、ただ怪態というべきではないか。次はハプティックグローブを装着する羽目になるに違いないのである。しかしそう考えると、この生態系の裾野はまた、だいぶ広い。
WWDC
WWDCのキーノートをざっと眺める。噂のVision Proは、これまで数多のSFが示してきた仮想世界のハンドジェスチャーに没入する未来人像をリアルに出現させることになるという点で、どこか終末感も感じさせる気がする。万人がスマホを覗き込む未来の果て、この奇怪なヘッドセットを装着して窺い知れぬ世界を彷徨う人々の群れというのは、もちろんディストピアの光景であろう。
各OSのアップデートはどれも順当な雰囲気で、このあたりは冒険なく細かな改良を続けてくれれば文句はないので、よろしいのではなかろうか。ハードウェアではかねて噂のMacBook Air 15インチが登場して、外見のバランスが案外いい感じなのでちょっと気になっている。キーボードの配置ひとつで満足を感じることができるというのが筋金入りの境地というものである。
無理もない
あたかもなかったかのように振る舞おうというのが社会の基本的なモードである以上は、会社の活動も制約なく行われるというのが現在の状況である。週明けの職場では北米から帰国したばかりで発症というケースが複数発生して現在のところ100%を記録する。まぁ、そうなる他ないという気がするのだが、COVID-19もインフルエンザも陽性という事例まであって一体、何が起きているのかと思わざるを得ない。これが新常態というのであれば、ずいぶん剣呑なことである。
C’MON C’MON
『C’MON C’MON』を観る。A24の制作で、全編がモノクロデジタルのマイク=ミルズ監督作品。ホアキン=フェニックスは、ラジオ局のジャーナリストを演じ、拠点のニューヨークだけでなくデトロイトやニューオリンズといった荒廃を経験した町の子供たちにインタビューをして、その音声を記録に留めている。ロスに住む妹の事情で、甥のジェシーを預かることになってしばらく過ごすうち心を通わせていく。
A24に期待される良識的な内容の全てが盛り込まれたような落ち着いた内容で、静かな言葉と語りを通じて関係が修復されていく物語には力がある。ジェシーを演じるウディ=ノーマンは時々、出現する驚くべき子役のひとりで、ホアキン=フェニックスとほとんど二人だけでストーリーを駆動して陳腐なところが何もない。そして、録音された言葉が何ごとかを語る構成は秀逸。記録された平凡さが不滅の何かに転じるその作用が映画そのもののことであるかのように、エンドロールの最後まで思わず聴き入るような奥行きを生んでいる。
Tableau
このところBIツールに凝っていて、久しぶりにTableauも弄って、その奥深さに感心している。とにかく多機能なのは承知しているのだが、その組み合わせに限りがないので、分析用のVizの再現を再現を解題している動画を眺めては匠の技に感心する。
この感じが何に似ているかというと将棋の解説で、限られたルールを駆使して大抵のことができてしまうとして、その道筋を見出すには膨大な知識とパターンの研究が必要になるのである。そして推論を可能とするAIはそれができるようになる一歩前まで来ていて、であれば知性と呼ぶにも違和感がない。