1秒先の彼女

『1秒先の彼女』を観る。2020年公開の台湾映画。岡田将生と清原果耶でリメイクしたのが先ごろ公開された『1秒先の彼』で、こちらでは男女の設定を入れ替えたみたい。脚本を書いたのが宮藤官九郎だというので、少し楽しみだけれど未見。もちろんこのオリジナルの評判もよくて、ヨーロッパ企画みたいな技巧的な脚本も面白いし、世間から少しだけはみ出ている男女の疎外や喪失の描き方が何しろいい。

郵便局で働く主人公のヤン=シャオチーは楽しみにしていたチャイニーズバレンタインの1日の記憶が残っていないことに気づくが、夢の導きと残された写真の謎を追って見つけ出した私書箱の手紙が7月7日の出来事を呼び起こす。とりとめのない記憶のエピソードと、夕日と光線の入射が人生のままならなさと美しさを感じさせるし、それを体現した主演のリー=ペイユーの存在感は素晴らしい。がちゃがちゃとした序盤の印象と、後半のポートレイトの佇まいは別人のようで、それをそのままなぞることを回避したリメイクは賢い選択をしたのではなかろうか。

異質であり秀逸でもあるのは父親のエピソードで、ただ風だけが吹いている世界に奥行きを与え、物語の寓意を深める仕組みでうまい。