この日、目にした北大西洋の海水温のグラフは、これまでその恒常性によって温暖化がもたらす位相転移を食い止めてきた海洋が、ついに限界点を超えたことを予感させる異常な上昇を示していて、そのことに震撼する。世界の平均気温が観測史上の最高を記録し、各地が恐るべき熱波に襲われていることと符合しているのだが、それでも、数ヶ月前に始まったエルニーニョ現象は現在の状態にまだそれほどの影響を及ぼしていないというのである。
熱波そのものが農作物を枯死させ、海洋からのエネルギーの放出は必然的に巨大なハリケーンをもたらし農業は大規模な打撃を受ける。ウクライナでの戦争よりも、食糧生産は気候変動によって大きく落ち込むことになる。この先、どれほどの余地があるのかは判然としないものの、この文明にあらかじめ警告された命数はほとんど遣い込んでしまったのではなかろうか。