1943

盆休みなのでNHKスペシャルの『ドキュメント太平洋戦争1943』を観る。太平洋戦争の雲行きが怪しくなった1943年からの、市井の人の日記の記述を拾って戦況の悪化を説明していく趣向。この年から既に物資の絶対的な不足、少年の動員など、挽回不能な劣勢にあることが明らかでありながら、この戦争が終結するまでさらに2年余りかかったのである。歴史の合間に埋もれた稗史を掘り起こす取り組みも大変、大事であると思う。

二夜連続の後編では、動員のノルマ、学徒出陣壮行会や煽動するメディアの様子が、そうして送り出された若者のうちに多くの餓死者が出ようとは未だ知らない人々の言葉で語られる。題材となった日記を「エゴ ドキュメント」と称して紹介するのだが、南洋の島で置き去りにされた徴用工の日記などは、この国の軍隊の実相を伝える一流の史料というべきであろう。

今日のNHKは、国家の走狗としての報道姿勢が際立ち、もうだいぶ毒が回っているとしか見えないが、さきの戦争を扱うドキュメンタリーの制作ではさすがに良識を保っていて、それも連綿と繋がれてきた文脈があればこそであろう。毎年、終戦の日を迎えるにあたって戦争を否定し、メディアの姿勢を自己批判して、国民の啓蒙に努める番組を作り続けることは公共放送の使命といってよく、そのことはさすがに弁えているようである。ナレーションにもビックネームというべき役者を布陣していて、気合を感じる。