『NOPE / ノープ』を観る。ジョーダン=ピール監督の三作目で『ゲット・アウト』と同じくダニエル=カルーヤが主演している。例によってM=ナイト・シャマランっぽい不可思議を扱った映画だけれど、構造的な支配や抑圧とその可視化を強くイメージさせる内容になっている。この災厄は「見ない」ことによって当面をやり過ごすことができるのだが、これをどうにかして撮影しようとするあれこれがストーリーの主軸にある以上は、見るなの禁忌の話というのとも少し違う。監督がコロナ禍に起きた事件に着想を得たという通り、ジョージ=フロイド事件の状況が撮影されたことがBLM運動拡大の契機となったことを念頭に置いているのであろう。あの事件の映像自体、システムとして組み込まれた差別を可視化したという点でImpossible Shotだったのである。
付け加えるならば、ジュープを演じるのがアジア系のスティーヴン=ユァンであるというというのにも意図を読み取らざるを得ない。
全体に通底する構造差別への批判的な眼差しを読み解くのも興味深いのだが、冒頭近く、「靴が立つ」という偶然を切り取ったカットの構図の妙は、全体的にレイアウトが優秀なこの映画でも白眉と言えるだろう。これをある種の啓示だと考えてしまった劇中のジュープの誤読に納得できるくらい、異様さの際立つシーンだったと思うのである。そしてバイクでのスライディングブレーキという『AKIRA』へのオマージュシーンもほぼ完璧な構図で、ジョーダン=ピールと撮影のホイテ=ヴァン・ホイテマの仕事のレベルの高さには唸る。