伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』が最初から終わりまで、実に伊坂幸太郎らしい話なので感心する。物語はシンプルなのだけれど、登場人物が相互に関係しているらしい描写が考察を呼ばずにはおらず、しかし最後に少しだけピースを余らせる感じは名人芸の領域にある。全編は読みやすく、凝った文体ではないけれど、メッセージの一貫性が作家性を強く意識させる読後感は独自のものであろう。物語の編み出す文脈が多層に存在すること自体を楽しむ抽象画のような構造のなかで、抽象画というものが再帰的に語られるというようなところがあるのだが、これはもちろん巧まれたものに違いない。