『リンカーン』を観る。奴隷解放宣言そのものではなく、戦争の終結と憲法修正第13条可決に向けたリンカーン最後の4ヶ月を描いている時間軸の選び方がまず秀逸。ダニエル=デイ・ルイスのリンカーンはリンカーンその人以外の何者にもみえず、強い光と陰影の表現がつくるコントラスト、控えめなサウンドトラックが自ずから全体の分厚さを象って、全体としてすごい映画になっている。一方の面白さはロビイストの策動とプラグマティックな政治の実像で、嘆くことを自らに禁じたハードボイルドな大統領の姿は『秘密の書』のヒーローなどよりもよほど格好いい。スティーヴン=スピルバーグのダイレクションも立派なものではないか。