『リップヴァンウィンクルの花嫁』を観る。何しろ180分もあって、黒木華が演じる主人公の皆川七海がCocco演じる真白に会って現実を逸脱してからでもほとんど映画一本分の尺があるけれど、黒木華出づっぱりの180分だと思えばお得感が高い。
物語は過酷でどうしたらよいかよくわからない現実そのもののパートと、虚構が現実を侵食しようとするパートの組み合わせで出来ていて、特に虚構パートは岩井俊二一流の被写界深度とソフトフォーカスを織り交ぜて美しく撮られ、カメラフォローも違和感のない動きで気持ちいい。七海が家を出て道に迷うあたりは、ストーリーとしてはそこまでいらないだろうという長撮りで、岩井監督が黒木華にあて書きした上に、撮りたいイメージで存分に綴った風で、それはもう全体にそんな感じなので、こちらとしては共感するしかないわけである。黒木華のメイド姿!黒木華のカラオケ!(『僕たちの失敗』!)ウェディングドレス!(2回!)と、まぁ、そんな感じで延々と観られる。楽しい。
綾野剛は彼の定番というべき演技プランだけれど、得体の知れないチェシャ猫というべき役回りを演じて正体がわからないのに厚みがあるし、Coccoもいい。序盤に描かれる現実はあまりにも居心地が悪くて、ついには結婚式という虚構をニセ家族が取り囲むという空恐ろしい構造まで作ってしまうのだけれど、クライマックスではそれを反転してみせるわけで、なかなかよく出来ているのである。葬式の場面も然り、ほんの数カットでニセの家族がホンモノに転じる手際と構造の美しさは素晴らしい。傑作ではないか。