『街の上で』を観る。下北沢の古着屋で店番をする荒川が、朝ドラのように限られた舞台を行きつ戻りつ暮す日常の中に、人間の関係性が妙に克明に浮かび上がってくる。登場人物のひとりが「いちばんどうでもいい、時間の概念」という通り、因果ではなく縁にこそ物語があって、それがもう妙に面白い。もちろん物語としての時間軸は存在するのだが、何週間か冷蔵庫にあったチョコレートケーキも、それを食べてしまったとしたら、誰かと食べたという関係性しか残らないというのがこの物語のルールであろう。同じようにして案外、論理的に話が編まれている。
さまざまな創作が連鎖して網目となり、地層のように積み重なってきた下北沢の街で、人の営みが同じように豊穣な網目を作り出す様子を描き、文化の構造そのものを指し示そうというのも目論見のひとつであろう。それは首尾よく成功して、繋がったノードも繋がらなかったノードも、全体としてはささやかなのに、それぞれが形良くいちいち腑に落ちるエピソードになっている。
主人公の荒川青を演じる若葉竜也の佇まいは秀逸で、先行きを読むことができないこの物語で、事件性を予感せずに観ることができることの功績はこの人にあると思う。