『チェンジリング』を観る。クリント=イーストウッドはサム=メンデスにならび完璧な映画を作り、現代の巨匠というべき監督だが、尊敬すべき人格でもあって、その目線で撮られた本作のテーマも骨太で揺らぎなく感服するばかり。まず、翁が異議を唱えているのはいうまでもなく権力の濫用であって、ここに描かれている先人の闘い、築かれた歴史の重みを考えれば、ジャック=バウワーだって同じ聴聞会であれほどふてぶてしい態度はとれまいという話なのである。常にそうであるように、同時代的なテーマについて自身の主張をきちんと織り込むその背筋はぴんと伸びて、だからこそ畏敬の念を呼び起こす。元となった事件にあった犯人の母親という存在を注意深く排除した脚本も周到でよく練られたものであり、俳優陣も質の高い仕事をしていて申し分ない。傑作であろう。