『マイレージ、マイライフ』を観る。『サンキュー・スモーキング』のジェイソン=ライトマンが監督・脚本だというだけで、期待は高まるというものだが、例によってきっちりと構造化された内容で観ていて気持ちがいい。傑作。
主人公のライアンは重荷を背負わず手順にスマートなプロフェッショナルという役回りを与えられている。新人のナタリーはロールモデルに自分の人生を重ね合わせようとする典型的な若い女の子で、もう一人の主要な登場人物であるアレックスは仮想と現実を使い分ける術を覚えたベテラン。過大なストレスに曝される世界で近代以降の人間が身につけた幾つかの生き方を、きわめてシンプルに類型化してストーリーに貢献させており、ことはライアンの「中年の危機」に限定された話ではなくなっている。それに加えて、たとえば、妹の結婚式のための写真を各地で撮るという奇妙なエピソードは、仮想と現実というモチーフを日常のレベルで反復する機能を与えられており、よく考えられた題材と構成によってストーリーには自ずと奥行きが生まれていて、このあたりは何かと勉強になる。
映像のキレもよく、ライアンが空港でのチェックインをきわめてスマートにこなすシークエンスには、まぁ、シビれるわけだが、このようにどうでもよい流れをこれほどまでにカッコよく描くことが出来るというだけでも、監督の力量というのは計れるというものである。
ライアンとアレックスが徐々に近づいていくあたりもうまく演出されており、漂う親密な空気感だけでこちらも幸せになれるという感じで、ヴェラ=ファーミガがアカデミー助演女優賞にノミネートされたというのもよく判るけれど、ジョージ=クルーニーも相変わらず素晴らしい。