『ウルフマン』を観る。タイトル通りオーソドックスな狼男の話で、ベニチオ・デル=トロとアンソニー=ホプキンスという大御所に加え、エミリー=ブラントが婚約者を亡くしたヒロインという役回りで登場して、今が旬という存在感を放っている。ゴシックホラーとしての舞台装置は過不足のないもので、特に前半の荒涼とした雰囲気と色温度の低い画面はなかなかのものだが、後半にかけてCGの分量が増えてくると途端に平板になってしまうあたりは残念。CGアニメーションにはある種の重厚感のクオリアが今のところ決定的に欠けているようだ。したがって、狼男に変貌する過程が念入りに描かれたとして有難味は少ない。結局のところ、ホラーの要諦というのはその動きにあるわけではないということだろうが、この映画では何もかもが直截的なのである。そう思いながら観ていると、全体の組み立て方もかなり定型化されたものであり、たとえば残り時間によってだいたい展開が見えてしまうような設計になっていて興醒めなのだが、監督のジョー=ジョンストンは『ジュマンジ』のひとで、つまりILM出身あるから、仕方がないといえば仕方がない。
そうはいってもジェボーダンの地名がそれとなく出てきたり、ホラーではお約束の予感を感じさせる結末になっていたり、脚本には細部に楽しめるところも多いのである。日本語の字幕ではジプシーが「流浪民」となっていて、そうしたディテールが醸し出すなけなしのゴシック感を台無しにしているのだけれど、ジプシーがジプシーで通じないのが現代日本の常識であるとすれば、狼男よりもその方が怖い。