『舞台「鉄人28号」』を観る。押井守の舞台ということであれば容易に想像がつく通り、埋立地に始まり埋立地に終わるミュージカル調の舞台で、もちろん鉄人28号をその中央に据え、南果歩が主演として金田少年とキツネコロッケのお銀の二役をこなしている。ちょっと高度な調の入った昭和演歌風の劇中歌は難しそうで多少、気の毒な感じはあるにして、歯切れのよく、少年っぽさとお銀の婀娜っぽさを演じ分けているあたりは立派。きれいな人である。物語は伝説の野犬「有明フェリータ」をめぐる騒動とか、東京オリンピックを巡る人狼党の暗躍とか、鉄人28号とはあまり関係のないところで進み、主眼は金田少年がさまざまな正義の間で苦悩するというあたりにあって、まぁ、「純真無垢は、罪である」という惹句からして押井守そのものといった感じなのだが、初めてこの世界に触れるひとは面食らうに違いない。ちなみに大塚署長をサンプラザ中野くん、人狼党のリーダー犬走一直をダイヤモンド☆ユカイが演じており、キャスティングもなかなかに不思議なものである。
途中、舞台劇にはよくあるフラッシュ照明によるコマ送りの演出があるのだが、この効果はあまりうまく出ていなくて、単にドタバタしている印象があるのは残念だが、初めての舞台演出としてはそこそこ無難にまとまっているとは言えまいか。しかしその成功は、特に『アサルトガールズ』という判りやすい駄作を経験してしまった後では、単に押井守的文法に親しみ過ぎているから感じられるのではないかと自問しなければならないほどに、危うい。