バッキンガムの光芒

ファージング三部作の最終巻『バッキンガムの光芒』を読み終える。前作の10年後、警部補だったカーマイケルは『暗殺のハムレット』で設立が予告されていた監視隊の隊長となっている。『英雄たちの朝』から徐々にずれ始めた歴史の風景は、いよいよこの世界のものとは様相を変えて、何しろソビエト連邦は既に消滅している。こうした設定が正面から語られることがないのは前作までと同様だが、例によって主人公カーマイケルの一方の語り手であるエルヴィラは「ファージング講和条約」後に育った世代ということになっているので時折、世界が歪むような価値観が表出して妙に怖い。このシリーズの開巻にあたって掲げられていた「つい戦慄を覚えてしまうことに静かな満足を得られる人たちのため」という奇妙な効能書きの説明する通りであって、その意図は成功している。