『オーケストラ!』を見る。共産主義政権下での弾圧と音楽を題材にした映画には最近では『善き人のためのソナタ』があって、あれにも泣かされたものだが、本作は全く異なる毛色で、ファンタジーともコメディともいえる要素を詰め込みながら、最後にはきっちり感動で落とす内容になっている。一時期のイギリス映画みたいな復権の物語だが、傑作。
異郷を舞台として言葉はままならず、語られないことすら多くあって、だがしかし30年の時を経てなお音楽は奇跡を起こすという筋書きは恐ろしくシンプルで力強い。124分の長尺ながら、音楽をきっちり聴かせるのはラスト近くの協奏曲のみである。この力のため方が感動を増幅させている。交響楽団を出す映画でそんなストイックな演出が可能なのかといえば、うまいこと設定が活きていて、デュダメル(そういえばボリショイが喚ばれるのはLAフィルの代役というストーリーだ)のそれ以上に破天荒な楽団なのでそのあたりが不自然に見えない。いや、不自然といえば無茶苦茶、不自然だしそもそもあり得ないのだが、物語としてはこれしかないように出来ている。うまい。