ごまおのこと。

で、問題の犬というのは、保健所に保護された推定5−6歳のチワワ(♂)なのである。チワワなのに凶相の持ち主であって、保護犬に身を窶すくらいだからちょっと幸薄そうなオーラを放っている。 何しろ、アイシャドウが濃すぎる。
抱き上げたところ背骨が浮き上がるほど痩せており、少なくともここしばらくはまともな食事をしていなかったことが知れる。体毛は白を中心に黒の入ったツートンだが、脚や腹回りの毛は糞尿で焼けており小麦色に変色している。肉球の皮膚は柔らかく、室内犬であることは明白で、どうやら散歩に出るということも少なかったのではないか。体格は小さめなのだが、歯石がたまっていることもあって、年齢はそこそこ重ねていそうだ。人には馴れている。場合によってはオスワリもできるくらいの芸は備えていて、何しろ人間に対する警戒というものがない。一方、犬には馴れていないようで、人間を取り合って啀み合ったりする。
かつて可愛がられた形跡のあるチワワでありながら、転落してからの年季もそれなりに重ねていそうだ。かなり複雑な境遇にあったワンコが、果たして犬の集団生活に馴染めるのかという根本的な疑問はあるにして、保健所を去り際、それまで隠れていたクレートから飛び出して「わん!」と鳴いたその声は少し自信なげで、連れてってくれとは言わなかったけれど、名前は「ごまお」と決めた。