年内にもまだ数本の映画はみるだろうが、そろそろ時節ということで2010年に観た映画を振り返ってみる。
脚本という角度からみれば、いくつもの象徴を用いて奥行きを出していたのが『レスラー』である。もちろんミッキー=ロークの熱演も記憶に残る。『プレシャス』は社会の成員がどのように作られなければならないかという問題意識を強く感じさせて、敢えて言うまでもないことだが優れた仕事となっていた。
映画としての完成度が全体に高く、ベストとして挙げておかねばならない作品もいくつかあって、最近観た『ザ・ロード』もその一つ。何しろ原作が好きなのだが、その意図をよく弁えた映像化で、同時にマッカーシーはヴィゴ様を念頭に小説を書いたのではないかと思えるほどにハマっていた役者もまた見事。『ハート・ロッカー』は『プレシャス』と同様、何ものかが欠落しているといいう状況を描くことに果敢に挑戦し成功していたと思う。
『マイレージ、マイライフ』もあった。これもまた『プレシャス』と同じくらい、自らを省みることを求める映画であったと思うのである。ヴェラ=ファーミガの仕事も傑出していた。
このあたりの評価というのは、ほぼ傑作ということで固まっているので、言を重ねる必要もあまり感じないのだが、ややマイナーなものにも面白い映画は当然あった。『エスター』もそのうちの一つだが、これもヴェラ=ファーミガなのである。彼女と『(500)日のサマー』のゾーイ=デシャネル、さらに『デス・ロード /染血』のエミリー=ブラントあたりは、今後もますます活躍するだろうと感じられたものである。
『月に囚われた男』のサム=ロックウェルは好みでないにして、懐かしいSFの香りがしたし、『脳内ニューヨーク』は噂に違わぬイカレぶりではあったけれど、本に著者買いというものがあるように、チャーリー=カウフマンだというだけで許せる内容ではあった。『オーケストラ!』も物語のお約束というものに忠実な善き映画であった。定型というものが好きである。
『ROCKER 40歳のロック☆デビュー』『セントアンナの奇跡』あたりもよかったと思う。前者は、まぁ、完全に趣味だけの話だとして。
ノンフィクションでは『バラク・オバマ /大統領への奇跡』を推す。既にあの熱狂は過ぎたとして、バラク=オバマその人の人間的な魅力というものは確かにあるという気がしたものである。
こうみるといわゆる大作の存在感が薄いような気がするのだが、『アバター』より『アイアンマン2』というあたりが脳内番付である。『グリーン・ゾーン』も悪くはなかったけれど、チェイニーをこき下ろすという仕事が必要だったと思うのである。
振り返れば『ザ・ロード』と『プレシャス』が抜きん出ていたというのが結論なのだが、この二つの映画の主題というのは実はよく似ている。個人から共同体、さらにそれを支える倫理というものが重ねて語られるようになってきている。