フェアウェル さらば、哀しみのスパイ

winter『フェアウェル さらば、 哀しみのスパイ』を観る。えらく渋いサブタイトルがついているけれど、モスクワを舞台に、実際にあったスパイ事件を題材にしたフランス映画で、内容もかなり渋い。銃の発砲シーンは音だけ、あるいは劇中レーガン大統領が自分の出演作を観ているその画面の中といった具合で、アクションと呼べるようなものもなく、現実のスパイ活動がおそらくそうであるように、軋轢は主に家族関係を中心に描かれ、秘密の入手もその暴露も実に淡々としたものである。
ソビエト連邦の崩壊とそれによる冷戦終結の原因のひとつになった事件という惹句がつけられているが、そのロジックはこのように描かれている。冷戦構造の一極を作っていたソビエトの科学技術がその競争力を諜報活動によって維持しており、Xラインという、そのための諜報リソースの一斉摘発にあわせ、レーガンがいわゆるスターウォーズ構想をぶち上げたので、アメリカに遅れをとることに焦ったゴルバチョフがペレストロイカを決意する。なるほど。劇中、レーガン大統領はこの構想をブラフとして位置づけているのだが、長らく、自分はこれを彼の大統領の幼児性の発露だと漠然と考えていた。生きていれば100歳というあの人物がなんだか歴史上の偉人に思えてきたものである。
ここに描かれている外交の文脈は恐らく一面の真実を言い当てており、そのことだけでも滋味に富んでいる。スパイ活動そのものの曖昧さも妙にリアルであり、唯一、浮世離れしているのがCIAの狡猾さというあたりも面白い。さらりとしているようにみえて、なかなか奥深い映画なのである。