『ヒア アフター』を観る。NDE、いわゆる臨死体験を扱ったフィクションといえば、コニー=ウィルスの『航路』を自動的に思い出してしまうわけだが、あれよりもかなり直截的に死後の世界を扱っていて、何しろマット=デイモンの役回りは真正の霊能力者なのである。題材的にはいくらでも怪しい方向に行く余地があるのだが、監督がクリント=イーストウッドなので、そのあたりの節度は信頼していい。冒頭こそ、南洋の津波を再現したスペクタルになっているものの、全体のトーンは落ち着いたものである。見どころはサンフランシスコとロンドン、パリで語られる物語が急速に交差していくあたりで、言ってしまえばそれだけの話であるにもかかわらず、そしてこれまでとは全く異なる素材を扱っているにもかかわらず、細部の構築が説得力と作家的な語り口を生んでいる。ラストシーンのカットだけで誰の手になる映画なのかがわかる作品というのも、そうはないのではあるまいか。例によって音楽もいい。