『悪魔のハンマー』を読む。1970年代、冷戦が世界を二分し、原子力が実用技術として黎明期にあったころの災害小説で、彗星の一部が地球に落下して文明が滅び、再興の萌芽をみせるまでを扱っている。冒頭、彗星発見のくだりは映画の『ディープ・インパクト』が似たようなエピソードを使っていたし文明崩壊後はポストマンが活躍するしで、後の創作に与えた影響は大きい。古くさいところはあるにして、名作なのである。ソビエトと中国は核兵器を撃ちあってどうやら自滅しているので、物語は西海岸の生存者を中心に語られるけれど、再興の希望の中心にあるのは原子力発電所で、このあたりが今日的な再読の醍醐味になる。クライマックスは原子力発電所を打ち壊そうとする狂信的な集団と理性の対決として描かれるのだけれど、そもそも原子力発電所がカタストロフを乗り越えられるとは信じがたい世界からはある意味、新鮮に見えることである。とはいえ、高度な技術文明が断絶に直面するという設定を深く考えることは大いに意味があると思われる。知恵の継続性は自明のようにみえて実はフラクタルな複雑系であるので再現が困難であるという認識は、文化と文明の質的向上に寄与するであろう。