世界大戦争

bee『世界大戦争』を観る。1961年の日本映画で、『エデンの東』ばりのオバーチュアから始まるあたりに風格が漂う。キューバ危機の前年にあたる時代の気分を反映して、偶発核戦争により滅亡に向かう世界の情景を、フランキー堺が演じる男とその家族のエピソードを通して描いている。円谷英二によるミニチュアワークはもちろん往時の雰囲気を漂わせたものであるとしても、無常感の漂う物語の紡ぎ方は見応えがある。
この無常感は、同盟国と連邦国が互いに牽制しつつ緊張感を高めている世界にあって、衝突の危機を幾度となく回避しながら、結局は破局に至るプロセスから立ち上る。フラクタルを描く複雑系そのものという語り口が、現実ってたぶんこんなもんだという意味でのリアリティを醸し出している。
劇中のテクノロジーは60年代風に古風なものだし、フェイルセイフ思想があるとはとても思えないにして、多重防護の果てにこんな感じの炉心溶融を引き起こしてしまった311後の日本であれば、いろいろと身につまされる映画である。
笠智衆演じる炊事長が呟く最後の言葉は「人間は素晴らしいもんだがなぁ。一人もいなくなるんですか、地球上に」というもので、いつもの飄々とした語りは演技という感じでもないのだがすごく重い。