『英雄の証明』を観る。シェイクスピアの『コリオレイナス』の翻案で、何故か舞台は現代。ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーを出自とするレイフ=ファインズが主演で、その初監督作品なので、舞台が現代だからといって沙翁的演劇の線を外すことはなく、結果、ローマ人とヴォルサイ人が現代的装備で撃ち合い、護民官がコリオレイナスを追放したりする。悲劇としての筋書きもセリフも原典に忠実であろうとするので、全編が相当すごいことになっている。一歩踏み誤ればコメディとなるところ徹頭徹尾シリアスという、この腰の入り方は悪くないし、何しろ唯一無二なオーラに感心する。
オーフィディアスをジェラルド=バトラーが演じて、レイフ=ファインズのコレオレイナスとの二枚看板かと思いきや、主役を喰う存在感を発していたのはヴァネッサ=レッドグレーヴが演じる母で、コリオレイナスの妻と共闘する様子は他ではあり得ないシチュエーションでこれまたすごい。
役者は皆、熱演というべきだが、熱を入れれば入れるほど現実感からの乖離が生じて独自の世界観が立ち昇ってくるという仕掛けで、一方、ギリシャならぬローマで民衆の不満が溜まりに溜まっているというあたりに時節柄、妙なリアリティがあって結構、よく考えられているのではあるまいかという気がしなくもない。