『デンジャラス・ラン』を観る。
スパイ映画にはポール=グリーングラスが『ボーン・スプレマシー』と『ボーン・アルティメイタム』で確立した様式というものがあって、つまり現代的なスパイ戦がアメリカ本国の対応チーム居室をもうひとつの舞台として展開され、一朝事あればデヴィド=ストラザーンあたりが”People, listen up! This is a full priority situation.”とか言って仕切り始め、一方、遠い異国の地での追跡と格闘は無辜の群集のなかで監視カメラを意識しつつ進行し、命のやりとりが状況全体の主導権を奪い合う頭脳戦として描かれる。伊藤計劃が「劇場を出ると早歩きになる」「周囲に(必要もないのに)視線を走らせる」と看破したこれらの映画の影響下にこの作品もあり、しかし物語自体はCIAが南アフリカに非公式に運用するセーフハウスの日常から始まるあたりが目新しく、これが背景に奥行きを与えることにも貢献していて、そうはいっても残念ながらポール=グリーングラスほど徹底したディテールの印象はないのだけれど十分に楽しめる。このあたりはデンゼル=ワシントンやライアン=レイノルズの手柄というよりは、設定の勝利というべきであろう。
面白いのは、事態の発生を受けて対応チームが南ア上空からの衛星動画を要請するにもかかわらず偵察局が平時であることを理由にこれを拒否するというくだりで、余分ともみえるこうした説明を挟んでオールドファッションなアクション映画へと向かうあたり、なんだか随分、生真面目な作りだと思ったものである。監督はスウェーデン出身でハリウッド進出第一作となるダニエル=エスピノーサ。