2011年の末に『ハンナ』を観て感心をしていたのが、つい最近のようにさえ思えるのだけれど、もう年末。月日の往く速度ときたら、それを悲嘆する間もないほどである。
そうはいってもこの一年で、例によって130本以上の映画は観ている勘定で、ひょっとすると時間は映画とともに過ぎ去っている。
で、これまた例によって、収穫というべき映画をこのところ反芻しているのだけれど、リストにしてみると捨てがたい作品が多くて、そういう意味では今年の実りもまた多かったと言うべきであろう。
今年前半に観たものでは何といっても『コンテイジョン』が好きで、あの似非ドキュメンタリー風の作りだけでもわくわくしてしまうし、大所の女優陣にあの扱いはソダーバーグ一流のものという他なくシビれる。マヤ暦がどうのと言っていたわり、人類が滅亡の淵に立とうかという大作は少なくて、貴重な一品でもあったのである。
大作といえば、最近観た『アベンジャーズ』も『ダークナイト ライジング』も期待通りの内容にはなっていて、十分に満足したのだけれど、シリーズもの隆盛の一方でスピルバーグ御大の『戦火の馬』こそ立派な志をもった大作らしい大作とみえ、どちらかといえばこちらを推したい。
最近では『デンジャラス・ラン』がツボに嵌っていて、スパイものではこれと『裏切りのサーカス』が双璧をなす。両方ともシリーズ化が決まっているという話だが宜なるかな。
正統派のドラマでは、ジョージ=クルーニーの『ファミリー・ツリー』がとってもよくて、これが『エリザベスタウン』へのオマージュを内包しているという自説に密かに自信を持っている。『エリザベスタウン』がそうであるように、家族の欠損と再生を描いた映画は数多あっても地縁にまで射程を伸ばしている脚本はあまりなくて、それが物語に奥行きを与えている。
拾いものの映画も沢山あったけれど、『フライトナイト』は期待していなかっただけに意外な佳作であって、イモージェン=プーツの色香だけではなく、やはりアントン=イェルチンはいい味を出していると思ったことである。
期待していなかったけれど意外によかったということでは『ヤング≒アダルト』が上を行っていて、開巻の15分の手際に感心したらジェイソン=ライトマン監督だったという。
低予算でも頑張れるのを示したのが『トロール・ハンター』で、もったいぶったところなしに話をどんどん広げていくあたりはよく出来ていた。妄想の力というのは偉大である。
役者ではライアン=ゴズリングとジェシカ=チャステインがやたらと目立っていた。ジェシカ=チャステインには『ペイド・バック』があったもののイマイチだったのに対して、ライアン=ゴズリングの『ドライヴ』はやっぱり面白かったし、『ラブ・アゲイン』ではスティーヴ=カレルを食うほどの存在感があった。『スーパー・チューズデー』みたいな有能でイケメンという役柄より、ちょっとコースを外したというあたりがいい。
邦画はほぼ観ていないという状況だけれど、徹底して邦画の作法から離れることができていない『探偵はBARにいる』が案外、良かったので世の中というものは油断がならない。
伊坂幸太郎原作の映画で『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』『ゴールデンスランバー』『ポテチ』を集中的に観たけれど、これらは良し悪し以前、雰囲気が好きなのである。
雰囲気でいえば今さらポランスキーと後ろ指をさされようと『ゴーストライター』も挙げておかなければならない。本、陰謀、東海岸の島という設定だけでもポイントが高い。ポランスキーでは『おとなのけんか』も悪くなかったけれど、記号というものに浸りたいほうなのである。
敢えてひとつを選ぶとすれば、2012年のベストは『ファミリー・ツリー』かもしれず、僅差で『コンテイジョン』がくる感じ。月日がいかに早く流れようと、どうやら趣味というもはあまり変わらない。