いわゆる食わず嫌い
いうまでもなく『機動警察』の大きな影響を認めていながら、パラパラと読んでみた初巻にいきなり登場した元傭兵の警部というマンガめいた設定に怖気づいてこれまで手を出してこなかった『機龍警察』のシリーズだが、第二作の『機龍警察 自爆条項』のみならず三作目の『機龍警察 暗黒市場』も世の中では評判となっているとあっては、いつまでも跨いで通っているわけにもいかない。Kindle化されたのを機会に、この休みはシリーズを通しで読んでいたのである。
アニメーションの影響をあからさまに感じる設定はあるとして、劣らず濃いのが警察小説としての成分であり、本邦のベテランが書くところのエスピオナージュ小説の雰囲気に近く、巻を追うごと空想科学小説の部分に慣れてくると違和感もなくなって楽しめる。
小説としては「あの人」を想起させる
主人公たちが搭乗するのがオーバーテクノロジーの産物である汎用人型機械であり、これが龍騎兵と呼ばれていて、運用する特捜部という組織が警視庁にあり、そもそも主人公はといえば日本人傭兵、アイルランドの元テロリスト、ロシア民警の元刑事という話を『劇場版 機動警察パトレイバー2』の雰囲気で大真面目な組織闘争を通底させながら書いているといえば近く、つまりどこに出しても恥ずかしくのない厨二設定でありながら、著者の筆力は巻ごと目に見えて深まり、『暗黒市場』などは雪中行の暑苦しさから『北の夕鶴2/3の殺人』を連想したけれどそればかりではなく立ち昇る情念も近い書きぶりで、つまり冒険小説としてもかなり高水準な出来であって単純に面白い。
過去の創作へのオマージュをそこかしこに感じさせながら、世界観の細部の書き込みを積み重ねることで既に独自の群像小説となっており、月村了衛というのは福井晴敏を先鋭化させたような才能であって、好きな向きにはお勧めできる。