新興国擡頭の気配
『ザ・レイド』を観る。
インドネシアの映画を観たことがあっただろうかと考えて結局、タイの映画を幾つか思い出しただけだったのだけれど、ジャカルタを舞台にした本作はどうやら正真正銘の国産映画で、ただし監督は英国人であり、いわゆるお雇い外国人を連想して産業復興の黎明を感じさせる製作体制が興味深い。
警察の強襲部隊が麻薬王の根城となっているマンションに突入して返り討ちに遭うという本格的なアクション映画の枠組みに、固有の武術であるプンチャック・シラットによる格闘を詰め込んで、非常に濃度の高いアクション映画に仕上げてある。ブルース=リー風のところはあるにしても迷宮的に手の込んだセットは厚みがあって、ちょっとブレのある撮影からすると機材の方は万全ということはないだろうにして、少なくともアクションのほうはよく撮れている。
ほぼ全編が撃ち合いと格闘で、そのほかは付け足しという勢いなので、「強すぎ!殺りすぎ!敵多すぎ!」という公開時の惹句が妙に的確に内容を示しており過剰感の前に些事は霞むのだが、タワー攻略型格闘映画の定型に嵌まっているというわけでもなく、テンションも維持されているので102分があっという間。
個人的名作である『ザ・ロック』に、潜入した特殊部隊が全滅の憂き目にあうシーンがあって、無情な命のやりとりを描いたシーンとしては強烈に印象に残るものなのだけれど、肉弾戦に移行するまでの前半のモチーフはつまりこれで、個人的には全編がそうであっても構わない。
ハーモニー on Kindle
AmazonのKindleストアで『ハーモニー』がセール中で、300円弱になっているのをみて、ついこれを購入してしまう。Emotion-in-Text Markup Languageという仕掛けを電子端末の印象で読んでみたかったからなのだけれど、登場人物のミァハが紙の製本に敢えて拘るというエピソードがわざわざ採用されているのは、そもそも伊藤計劃が電子書籍を想定していなかったからであって、ディスプレイ上に表示されたコンテンツとしてはソースコードの体裁であるところに微妙な違和感があるような気がする。もちろん、それが小説の価値を些かも損なうものではないにして、興味深いと思ったことである。