人類は衰退しました
『トータル・リコール』を観る。1990年のポール=ヴァーホーヴェン版ではなく2012年のリメイクで、監督は『ダイ・ハード4.0』のレイ=ワイズマン。ある種のジャンル映画の製作には職業人として優れた技術があると思われるのだけれど、ヴァーホーヴェンほど突き抜けたところはなくて、妙に手堅い印象がある。
そもそも、今回の『トータル・リコール』で特徴的なのは、舞台として火星が登場しないことで、そのかわり地球を貫通してイギリスとオーストラリアを結ぶ巨大なエレベーターが登場するのだけれど、話のスケールは重力に囚われたもので、何だかそのことにガッカリしてしまう。SFが地球の外を語らなくなって、一体、人類は何処に向かおうというのか。
アイデンティティを問うている様子もなし
結局のところ、原作であるはずの『追憶売ります』とは似ても似つかないストーリーで、どちらかというと過去のSF大作映画の影響を受けたヴィジュアルが目立つ。リメイクを名乗りながら全く前作の影響を受けず、リスペクトの雰囲気もないのはいっそ立派という評価もあり得ようが、記憶の書き換えが生み出す入れ子構造が自己同一性への不安を呼び起こすことにほとんど貢献していないのはネタとして勿体ないと思うわけである。コリン=ファレルも、内面の葛藤などないままひたすらアクションに専念している感じ。
CGの画面は細かく作り込まれており、既視感のある未来都市だとしても立派な細部があるので悪くはないし、ケイト=ベッキンセイルとジェシカ=ビールまで含めてアクションの量でも頑張っているのだけれど、フィリップ=K・ディックの匂いだけはないのである。