『噂のギャンブラー』を観る。『ハイ・フィデリティ』の監督・脚本家コンビによる作品なので、それだけでも期待してしまう。原作がついてて、プロの女性ギャンブラーの手記に基づく実話ということになっている。とはいえ、物語の主眼はギャンブルそのものにはなく、そのそもギャンブラー自体も一般人が想起する古き良きギャンブラーではなく、オッズの変化を監視しながらブックメーカーに電話をかけるファンド風のギャンブラーであり、対象が株式か競馬かの違いくらいしかないところが目新しく、ゆえにあらかじめ予想されるような内容ではまるでない。つまりはラスベガスを拠点とした投資家というのがブルース=ウィリスの役柄であり、実に俗っぽくはあるのだけれど、やっていることはウォールストリートと大差ないというあたりにアメリカの多様性と均一性がみえてなかなか面白い。そのあたりは製作サイドも意識していると見えて、ヒロインであるはずのレベッカ=ホールの垢抜けなさはついに洗練されることなく、特定クラスへの風刺になっている。キャサリン=ゼタ・ジョーンズも同様。
作り手の関心はギャンブルのシステムよりは人間の生態にあって、主として金を動機に物語が駆動する物悲しさはおくとしても、違法なギャンブルの露見を回避するためのドタバタを実話だと言って描いてみせる不思議な話であり、つまり元の手記は自白を目的に書かれたのかよというあたりが微妙にいやらしい。無理にハッピーエンドにするような話ではないと思うのである。