『M3GAN』を観る。ジェームズ=ワンが製作に入っている2023年のスリラー。ファービーみたいな子供用玩具を作るメーカーが何故か、本格的なAI人形の開発に手を染めており、みるからに危ない目つきのプロトタイプに自分の姪の世話をさせた開発者が案の定、トラブルに巻き込まれる。話の筋には意外なところが何もない典型的なジャンル映画だけれど、お約束通りの面白さというのもあって、全体の雰囲気は悪くない。劇中のM3GANはCGかと思いきや、若干12歳のスーツアクターが演じていて、Behind the Scenesが結構、面白い。このアンドロイドの異様な動きは、彼女の実演によるものだというから感心する。
映画
エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観る。A24制作でアカデミー賞の作品賞を受賞しているだけあって、ただのマルチバースものにあらず、まずあらゆる可能性の行き止まりのような人間関係を踏まえた話ではあるけれど、気合の入ったカンフーアクションが、これはこれで素晴らしい。もとはジャッキー=チェンにあて書きされたところがあるようなのだけれど、なるほどこのカンフーパートはそうしたものに違いない。
そして、ダニエル=クワン監督は湯浅政明らのアニメにインスパイアされたと話しているらしいけれど、それも腑に落ちる。アメリカ国税庁の垢抜けない事務所を主な舞台としていればこそ、映画の編集の力というのは多重世界をすら表現することができるのだと感心したのだが、それは日本のアニメが得意とする仕事でもある。とはいえ、ここで描かれている多様性は、アメリカであればこそ顕現したもので、本邦はその入り口にすら立っていない。
ONE PIECE
Netflixで配信の始まった実写版の『ONE PIECE』を観る。予想以上にちゃんとしたONE PIECEで、ファンの厳しい基準を高いレベルでクリアしている印象。本邦なら大友啓史の映画のごとく、オリジナルのイメージに寄せるために膨大な努力が投じられている。新田真剣佑のゾロはカッコいいし、何かと悪くない。シーズン1は全8話の一挙配信で、どうやら東の海編をカバーしていて、そうなるとだいぶ長大なシリーズにすることも可能ということになる。
仔細はだいぶ違うのだろうけど、そういえばこういう話だったと思いながらぐいぐいと観て、5話くらいまで一気に。仲間が集まってくる話だから少年ジャンプ的に面白いし、密度が濃いので切りどころがわからないのである。よく出来ている。
東京リベンジャーズ
『東京リベンジャーズ』を観る。2021年の実写映画。この物語の名前はよく聞くけれど、どんな話かは全く知らなかったのである。いや本当に。時間ものだったので、ちょっとびっくりしている。とはいえ、パラドックスに悩む感じじゃないし、漫画原作らしいキャラクターの個性を楽しむ『アベンジャーズ』みたいな映画という印象。そういえば、タイトルも似ているではないか。すでに実写版の続編も公開されているらしいけれど、単独でも収まりのいい結末が用意されている。眞栄田郷敦が出ているのは、ちょっとうれしい。
大蟻食の亭主、佐藤哲也氏の訃報を聞く。小説も読んだが、ブログのスタイルと映画については大き過ぎる影響を受けたと思う。この下りの船の道のりにあって。
インベージョン
Apple TV+で配信の始まった『インベージョン』シーズン2の第1話を観る。シーズン1のあの観念的なラスト、魂の彷徨を続けていた忽那汐里は侵略開始の121日目、どこともわからない街角でエイリアン相手の戦闘中に拉致される。この昔風の展開には何ともいえない作りものの味わいがあって嫌いじゃない。何しろ、再び忽那汐里が活躍しているのは嬉しい。それにしても、ミツキは何故、円地文子を知っているのか。
『ファウンデーション』のシーズン2はまだ観ていないのだけれど、正直言ってそれほどには話題になっていない作品が予告通りに作られるというのは、さすがAppleというところ。いくつかの作品は切られたということだけれど、制作に身が入っていなかったからというのは本当ではなかろうか。
異動辞令は音楽隊!
『異動事例は音楽隊!』を観る。阿部寛が演じる叩き上げの刑事が、30年の奉職の果て、パワハラの告発で音楽隊への異動を命じられる。タイトルだけで全てが説明されているような映画で、ひねりというものもほぼないし、人情劇の結末は逸脱なく予想の範疇にある。もちろん、もともとそういうジャンルの映画である。キャスティングにも意外性というようなものはないが、岡部たかしが意地悪な上司というような役回りで、『エルピス』以前はこんな感じのキャラクターだった気がする、そういえば。
疫起/エピデミック
『疫起/エピデミック』を観る。2023年の台湾映画で、英題は『Eye of the Storm』。SARSらしき症状の病気が広まっているという話が広まり、台北の総合病院が封鎖されて防疫対応の焦点となる。物語の舞台は2003年で、昔懐かしいNOKIAの携帯やPHSが登場したりするのだが、アジアを中心に起きたSARSのパンデミックとそれにともなう社会的なパニックを背景として、実際にあった台北市立和平医院の封鎖を題材にしている。それによって拡大した院内感染では10人以上の医療従事者が亡くなったのだから、これはほとんど事件といっていい。2週間の封鎖措置の間に自殺者すら出たというのである。
切迫した往時のアジアの雰囲気はよく知らなかったけれど、COVID-19のパンデミックを経験したあとでは、この映画に近いことが起きていたに違いないというのはよくわかる。状況が理解できぬまま、巻き込まれた当事者の視点で物語はすすむ。全体の作りも非常に丁寧で、制作の意図は明確だし、この時期にあってその意義は一層、大きい。こうした教訓を踏まえて台湾の防疫対策が大きく改善されたというのもよく知られた話だが、しかし本邦がこのたびのパンデミックから同じような教訓を得たとは、どうも思えないと考えたことである。