のるかそるか

視聴ランキング的には微妙なところを行ったり来たりという感じで、世間的に人気があるのかは知らないけれど、『生まれ変わってもよろしく』を引き続き観ている。実際、画面のレイアウトは決まり、撮影は美しく、音楽も趣味がいいのだけれど、よくよく考えると美男美女が見つめ合っているという風の展開がひたすら続くし、典型的韓ドラ要素がぎっしりと詰め込まれ、STUDIO DRAGON的記号が満載という内容なので、人様にはお勧めできない。ただ、格好いいシン=ヘソンに心酔する週2時間。このドラマは何故か12回の編成なのだけれど、まぁ、それくらいがちょうどいいのかも知れない。

1秒先の彼女

『1秒先の彼女』を観る。2020年公開の台湾映画。岡田将生と清原果耶でリメイクしたのが先ごろ公開された『1秒先の彼』で、こちらでは男女の設定を入れ替えたみたい。脚本を書いたのが宮藤官九郎だというので、少し楽しみだけれど未見。もちろんこのオリジナルの評判もよくて、ヨーロッパ企画みたいな技巧的な脚本も面白いし、世間から少しだけはみ出ている男女の疎外や喪失の描き方が何しろいい。

郵便局で働く主人公のヤン=シャオチーは楽しみにしていたチャイニーズバレンタインの1日の記憶が残っていないことに気づくが、夢の導きと残された写真の謎を追って見つけ出した私書箱の手紙が7月7日の出来事を呼び起こす。とりとめのない記憶のエピソードと、夕日と光線の入射が人生のままならなさと美しさを感じさせるし、それを体現した主演のリー=ペイユーの存在感は素晴らしい。がちゃがちゃとした序盤の印象と、後半のポートレイトの佇まいは別人のようで、それをそのままなぞることを回避したリメイクは賢い選択をしたのではなかろうか。

異質であり秀逸でもあるのは父親のエピソードで、ただ風だけが吹いている世界に奥行きを与え、物語の寓意を深める仕組みでうまい。

大奥

NHKのドラマで、少し前に評判になっていた『大奥』を観る。原作はもちろんよしながふみの漫画。シーズン1は全10話だけれど、既にシーズン2が決まっていて幕末までを描き切るという。いろいろ力が入っている作品で、もちろんよく出来ているのだけれど、徳川吉宗を冨永愛というキャスティングがあらかたを持って行く。カッコいいのである。構成からして原作に忠実な雰囲気で、愛が感じられて、幾度となく実写化されてきた同作の新たなメルクマークという感じ。面白い。

この日、専門家の会合が開かれ、コロナの感染状況はXBB1.16の割合が増加しているらしいことが確認される。いわゆる免疫逃避性能の高い変異株が今年の夏の流行をつくり、膨大な感染者からは多くの死者が生まれることになる。どうやらこの会合の結論は傍観ということだったようだが、それでよろしいか。

ノック

『ノック 終末の訪問者』を観る。M=ナイト・シャマランの最新作。理不尽で不可解な状況に巻き込まれた家族が恐ろしい目に遭う。物語は主に閉ざされたキャビンの中で進み、極限状況での説得と拒絶が繰り返される。何しろいつものM=ナイト・シャマランだし、黙示録の四騎士が訪ねてきて善人に向かって旧約聖書のように理不尽な要求をする話であれば、もちろん物語の帰着は容易には想像できない。あるいは、ほとんど予想通りの結末となって、不満があるとすればそこだろう。いや、こちらは十分、楽しんだ。

この前日、Twitterは1日の閲覧投稿数に規制をかけるという仕様変更をして、イーロン=マスクの介入以降、始まった終局の最終段階に到達する。有料会員にすら上限を設けるというのは結局のところサーバー費用の都合であろうが、広告媒体としての価値を自ら毀損する悪手を取らざるを得ないほどの苦境にあるというのだから、サービスとしてもこのまま衰退の道を辿ることになるに違いない。その結果、mastodonの各サーバーにはユーザーの流入が増加しているようだけれど、この逃避もさすがに頃合いというものだろう。

ハイジャック

Apple TV+で配信の始まった『ハイジャック』を観る。イドリス=エルバが、乗り合った旅客機でハイジャックに遭遇する民間のネゴシエーターの役回り。ドバイを出発しヒースローを目指す飛行機の搭乗に始まる話は、連続ドラマなりの尺を十分に活用し、手順を踏んで世界観を組み立てる。何しろApple TV+だから品質はあらかじめ折り紙つきというわけで、なかなか見応えがある。

次の007をめぐってレイシストの攻撃を受けていたというイドリス=エルバだけれど、これをみると彼のジェームズ=ボンドには全く違和感がない。心無い差別主義者の所為で、またしても我々は大きなものをあらかじめ失ったのである。

ライダーズ・オブ・ジャスティス

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』を観る。マッツ=ミケルセンが故郷デンマークで主演した映画。列車事故で妻を亡くした軍人が、それがギャングの仕業であると吹き込まれて復讐を開始する。鬼の如きマッツ=ミケルセンを主人公として、その実、偶然が支配するどうにもならない人生の網目をよろけつつすすんでいく男でしかないというのがヨーロッパ映画らしいところで、錯綜した成り行きは、ただ神の目だけが見通しているというつくり。

この日、ロシアの武装蜂起はベラルーシの仲介によってプリゴジンが離脱し、どうやら収束に向かう。反乱と断じたプーチンが、振り上げた拳を収めたかたちで、混乱したパワーバランスが安定化するまでには時間がかかるのではなかろうか。

そしてこの件について本邦での報じ方が、昼寝でもしているのかというほどにナマクラであることが話題となっていて、ロシアの騒動に忖度もないだろうから、結局のところ報道機関の実力が「その程度」となっていることを私たちは心配しなければならない。

悪鬼

『悪鬼』を観る。例によって韓国ドラマで、パラノーマルな題材を扱って不穏な雰囲気のあるスリラーだけれど、キム=テリが主演というところが重要。『シークレット・インベージョン』と『生まれ変わってもよろしく』に加えて本作と、現在進行形で追わなければいけないドラマのリストが急に充実してきたけれど、もちろん贅沢な悩みというものである。何しろキム=テリ主演のドラマを週を追って観ることができるというのだ。

この日、ロシアでワグネルが武装蜂起を宣言し、南部の要衝ロストフナドヌーではウクライナの戦争を指揮する軍司令部を制圧したらしいことが伝えられる。ウクライナ戦の兵站はその混乱のただなかにあるということになるけれど、この事態が何をもたらすのかを現時点で見通すことはできない。