生まれ変わってもよろしく

このところドタバタしていて、いろいろが行き届いていないのだけれど、Netflixで配信の始まった『生まれ変わってもよろしく』をなんとなく見始めてしまう。どことなく『ハリー・オーガスト、15回目の人生』を思い起こさせるけれど、しかしこちらは時間が巻き戻るわけではないし、時間も順方向にしか向かわないシンプルな転生ものではある、よく考えると。

Studio Dragonの得意が詰まった演出で、ロマンスでもあり、財閥ものでもあり、典型的な韓国ドラマの要件を備えている。『梨泰院クラス』での敵役のイメージしかなかったアン=ボヒョンが、それこそ生まれ変わった感じに好青年で、主人公のシン=ヘソンもキャラクターが立っており、今のところ特に事件があるわけではないのに結構、面白い。

シークレット・インベージョン

Disney+で『シークレット・インベージョン』を観る。侵略ものは好きである。MCU直系のダークサスペンスで、ニック=フューリーがスクラル人が関係するという陰謀を調べ始める。もちろん、シネマティックユニバースのキャラクターで織り成されるマーベル世界の話ではあるものの、このエスピオナージュっぽい雰囲気は悪くない。言葉だけでその存在が語られる宇宙ステーション「S.A.B.E.R」とか、『謎の円盤UFO』を想起させる設定がたまらない。あれに出てきたのはSHADOだけれど、もちろん、そこにはもともとオマージュがあって、ようやくその世界を見出した感じ。今週は第1話で、もちろん次回へのヒキは十分。面白い。

死刑にいたる病

『死刑にいたる病』を観る。死刑囚が数多の悪行のうち、自分に身の覚えのない事件の解明のために探偵を依頼するという話はいくつもあると思うけれど、阿部サダヲのレクター博士は説得力があって全体にキャスティングは悪くない感じ。折り返しで物語が転調した以降が面白いのだけれど、冒頭あたりの残虐な場面には、どうしてR15でなくPG12なのだろうかという気がしなくもない。法廷の場面に阿曽山大噴火がいる芸の細かさだが、ラスト20分に流れ込んでいく全体の作りはよく出来ている。しかしこの話、最近あった事件を思い起こさせるところがあって、ちょっと慄いている。

C’MON C’MON

『C’MON C’MON』を観る。A24の制作で、全編がモノクロデジタルのマイク=ミルズ監督作品。ホアキン=フェニックスは、ラジオ局のジャーナリストを演じ、拠点のニューヨークだけでなくデトロイトやニューオリンズといった荒廃を経験した町の子供たちにインタビューをして、その音声を記録に留めている。ロスに住む妹の事情で、甥のジェシーを預かることになってしばらく過ごすうち心を通わせていく。

A24に期待される良識的な内容の全てが盛り込まれたような落ち着いた内容で、静かな言葉と語りを通じて関係が修復されていく物語には力がある。ジェシーを演じるウディ=ノーマンは時々、出現する驚くべき子役のひとりで、ホアキン=フェニックスとほとんど二人だけでストーリーを駆動して陳腐なところが何もない。そして、録音された言葉が何ごとかを語る構成は秀逸。記録された平凡さが不滅の何かに転じるその作用が映画そのもののことであるかのように、エンドロールの最後まで思わず聴き入るような奥行きを生んでいる。

きさらぎ駅

『きさらぎ駅』を観る。2000年代初頭、2ちゃんねるで話題となった怪異譚に材をとった2022年の映画。恒松祐里が初めて主演を果たしたというのが、ささやかな話題になっていたと思うのだけれど、新進の女優を主人公に据えたモダンホラーというのは、それだけで立派なジャンルになっているわけである。とはいえ、異世界駅ものには、そもそもストーリーなどあってないようなものだから、ホラーとしてはショッカーに頼りきりで、全体にビジュアルノベルみたいな雰囲気になっている。まぁ、82分の尺に引き伸ばしただけでも偉業ということではなかろうか。

撮影に使われたのは上田電鉄の別所線という話で、思いのほか地元に近いので親近感は湧くのだが、異世界駅というよりは、ただの田舎の駅の雰囲気であるのは間違いない。今どきのものとは思えないCG合成画面は故意に使われたのだろうけれど、チープな印象しか残らないのも残念。

アストリッドとラファエル

『アストリッドとラファエル 文書係の事件簿』のパイロットを観る。先頃、NHKではシーズン2のオンエアが始まったらしいけれど、本国のフランスでは第3シーズンまで放映済みで、第4シーズンの制作も決まっているとか。BBCのドラマのようにきっちりした作りで、どこか『SHERLOCK』を思わせる雰囲気がある。高機能自閉症のアストリッドがパリ警視庁の警視ラファエルと事件を解決していく。導入はまずまずだし、少し無理はあっても面白いエピソードになっている。悪くない。

この日、北朝鮮の衛星発射通告に対して本邦の政府は、やや度を越したとも見える反応を見せる。秘書官を務める首相の息子のスキャンダルが話題となっている状況を踏まえれば、他国の意図よりも、どうしたって自国政府の思惑が気にかかるというものである。

決戦は日曜日

『決戦は日曜日』を観る。窪田正孝が代議士の秘書、宮沢りえが病気の父親の代わりに国政選挙に担ぎ出された娘を演じる。昔ながらの事務所体制に、エキセントリックな感じで登場する宮沢りえの存在感が面白くて、その個性で引っ張るコメディかと思いきや、個人の意図など超えて構築された利権構造が顔を覗かせる。欲得の異常な関係に最適化された陣営のそれぞれの役割がきっちり描かれているあたりが見どころで、デフォルメされているとしてもほとんど現実の姿に近いのではなかろうか。

こんなまずいことになっているのに、よく平気でいられるよね。何もしないで

窪田正孝と宮沢りえが、真人間となって落選活動を開始する後半、維新みたいな選挙を始めて炎上し、コアな層に気に入られてしまう展開は面白いのだが、もちろんすぐ真顔にならざるを得ない訳である。低い投票率なら組織票でいけるという、小市慢太郎演じるベテラン秘書濱口の総括は、どうすればよいかを示唆はしているのだが。

風刺の効いたウェルメイドなコメディである。窪田正孝の映画にハズレなしという経験則は維持されていて、捉えどころのない感じのキャラクターをよく演じている。