MONDAYS / このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない

『MONDAYS / このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を観る。タイムループ設定と映画の相性のよさは今さら言うまでもないけれど、きっちりフォーマットを守れば特に説明もなく事態が了解できるほどには観客の方も慣れていて、話は速やかにすすむ。

日本の産業構造の末端、クリエーションの下請け階層構造の最底辺にあろうかという弱小制作会社の職場を舞台にしているのが面白味で、繰り返しの状況を逆手にとって理不尽な仕事のクオリティがぐいぐい良くなっていくシークエンスは笑う。全体に練られた脚本で、細部が作り込まれ、ドラマとしてもよく出来ている。円井わん演じる主人公の吉川が元請けを訪問する場面、日常とループの境界を曖昧にしていくあたりも秀逸。画面の作り方も立派なもので、竹林亮監督の才気を感じる。面白い。

線は、僕を描く

この日、アメリカでファーストリパブリックバンクが破綻して公的管理下におかれる。資産はJPモルガン・チェース銀行に売却されるということだけれど、この規模の経営破綻を何ごともなかったかのようにやり過ごせるかといえば無論、そんなことはないであろう。

『線は、僕を描く』を観る。水墨画を題材にした同名小説の原作による小泉徳宏監督の映画で、主人公を横浜流星が演じている。何かと尖った役回りが多い気がするけれど、家族を失ったトラウマを持つ物静かな主人公を演じて違和感を感じさせない。意外と器量の大きな役者だと思うのである。清原果耶は安定の清原果耶で、それはそれで、もちろんいい。

『ちはやふる』の百人一首と同様、素材としての水墨画には、ほとんどの観客にあまり馴染みがないと思うのだが、一期一会の儚さと、つまるところ己が内面の表現であるということが何となく了解される話の運びはさすが。とはいえ、やたらとライブパフォーマンスを行なっている印象が、実際にもそうであるのかは、よくわからない。もしかしたら非常に異なる理解をしているのではないかという気がしなくもない。

非常宣言

『非常宣言』を観る。ソン=ガンホとイ=ビョンホンのダブル主演による航空パニック映画。チョン=ドヨンが国土交通省の大臣、バイオテロを実行するちょっとサイコな犯人をイム=シワンが演じており、その構えは韓国映画においても大作というべき作品であろう。

冒頭の空港シーンはドキュメンタリーっぽい空気の演出なのだけれど、その質感がエアロゾルで感染すると思しき「ウイルス」の不穏な描き方に繋がっていくあたりが見どころ。しかし、実を言ってそれがウイルスであれば目視できるはずもなく、「粉」として描かれる場面もあって謎は深まる。機内に広がる咳が不安を煽るあたりはいいとして、パンデミックの時代の映画にしてはバイオハザードの扱い方は少し雑という気がする。『FLU 運命の36時間』あたりから、進歩している形跡がほとんど窺えないのである。

とはいえ、舞台となる旅客機の離陸に合わせて展開する前駆的事件の発覚や、緻密な飛行準備段階の描写から、離陸しゆっくりと上昇していくボーイング777の姿といった前半の演出は定石を外さず、なかなか見応えがある。

後半も悪くはないのだが、日本との緊張関係を前提にした演出は仕方ないとして、乗客の自己犠牲の精神が発露する展開はちょっとやりすぎだし、ソン=ガンホは見せ場を作りすぎというものではなかろうか。

ブレット・トレイン

『ブレット・トレイン』を観る。伊坂幸太郎の『マリアビートル』を原作にしているという触れ込みだが、製作・監督のデヴィッド=リーチはかなり自由に脚色を加えていて、ジョー=カーナハンの『スモーキン・エース』みたいになっている。まず、そこがいい。日本高速電鉄が運行するブレット・トレインゆかりが疾走する日本のイメージも、悪夢世界じみていて楽しめる。非常ボタンを押すと走行中にドアが外れて飛んでいく仕様だったりして、何かと自由なわけである。

日本を舞台にしているにもかかわらず、外国人ばかりがキャスティングされているということでホワイトウォッシングだという批判もあったようだけれど、ブラッド=ピットが主演である以上は当然、このようになるだろうという気がしなくもない。

宇宙戦争

イギリス製のドラマシリーズで『宇宙戦争』を観る。H=G・ウェルズのあまりにも有名な原作をもとに、2019年には二つのドラマシリーズが作られているらしいのだけれど、こちらは現代劇として構成されたもので、最近まで3シーズンが制作されているみたい。全24話。フランス語のパートがあったりして、War of the Worldsという雰囲気がなくはない。しかし、第1話のラストで謎の攻撃があって、多くの人が死んだ後はディストピアSFみたいな感じに物語は展開する。これはどこに向かうのであろうか。

一方、もうひとつの方のドラマは、20世紀初頭のロンドンが舞台で伝統的なトライポッドも登場する正統派の『宇宙戦争』みたいなのだが、評判は今ひとつのようで二の足を踏んでいる。確かに新機軸がなければ、ハードルもおのずから上がると思うのである。

THE LAST OF US

HBO製のドラマシリーズ『THE LAST OF US』を途中まで観る。人気のあるゲームタイトルのドラマ化で、実はゲームそのものもPart1の冒頭付近をやったことがある。しかし、コツコツとゲームをする根気のないこちらとしては、同じ世界観で作られたこのドラマの方が有難い。HBOであるからには、それなりにきちんと作られているのである。

ポストアポカリプスものの常道を踏みつつ、危機から20年後という時間軸の置き方がちょっといい。文明が崩壊し、秩序が部分的に回復しつつある世界の寄る方なさ。どちらかといえば人間のほうが危ないという状況が通底しているのだけれど、ドラマとしてはそういうことになるのであろう。第3話の評判が高いけれど、確かにこのエピソードはよく出来ている。

シン・仮面ライダー

後れ馳せながら『シン・仮面ライダー』を観る。映画館では早くもやや小さめの小屋での上映となっていたけれど、客の入りはそこそこあって、わけても子供三人の家族連れの両親は開巻3分で派手に飛び散る血潮に、やってしまったと思ったことであろう。一応、PG12なのだが、冒頭からこの展開は予想していなかったに違いない。仮面ライダーの登場シーンの再現度がすごいのだが、演出プランは模倣を目指しているわけではないのである。

一方、ジジイ世代には、そこかしこのディテールが響く作りになっている、無論のこと。庵野秀明監督は脚本だけでなく、モーションアクターや光学作画にも名前を連ねており、やはり気合の入り方が違うのである。ロボット刑事Kのオマージュもいい。