ゴーステッド

『ゴーステッド』を観る。Apple TV+にしては珍しい種類のエンターテイメント映画で、アナ=デ・アルマスとクリス=エヴァンスが主演という、結構な大作なのである。こういう映画が直接配信される時代にあって、画質も音質も飛び切り精細なのできちんとした設備で視聴したいところ。

予告の類は見ないほうが楽しいと思うけれど、スポイラーもお約束のうちという感じ。いつものことだが、クリス=エヴァンスは二枚目過ぎないキャラクターを演じるところに好感が持てる。豪華なカメオ出演の無慈悲な扱いが楽しい。

さかなのこ

『さかなのこ』を観る。さかなクンの半生を題材にした沖田修一の監督・脚本作品。さかなクンをのんが演じて高い評価を得た映画だけれど、昭和の小学生がおそろしく緻密に描かれていて、この細部の稠密さにまずは感心する。その時代性は沖田監督にしか描けないのではないかと思ったものである。そしてもちろん、この役を宛て書きされたのんは素晴らしく、139分の長尺をぐいぐい牽引していく。能年玲奈とさかなクンという、かつて『あまちゃん』で共演した二人が、このような映画で再会しようとは。

柳楽優弥、夏帆、磯村勇斗、岡山天音という助演の分厚さにも目を見張る。ビーバップ的高校生活を描きたくなるのも納得の布陣で、このパートはやたらと面白い。

インターステラー

クリストファー=ノーラン監督の作品はどれも好きだけれど、順番をつけるとすれば『インターステラー』次いで『TENET』となるか。『インターステラー』が2014年なので、10年近く経っているけれど、あの長い物語はたまに観返して、なお飽きない。オールタイムベストの一角には入る映画である。

印象的なロボットのTARSやCASEをみているうちChatGPTを連想したのだが、現代のAIも、この映画のプロットに精通しているばかりでなく、ロボットたちの振る舞いも理解していて語り合えるレベル。聞くと、地図の座標をモールス信号に変換するくらいわけないと言うので、実際のところCASEまでもうすぐという感じ。

イニシェリン島の精霊

『イニシェリン島の精霊』を観る。『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナーの監督・脚本作品。アイルランドにある荒涼とした孤島での二人の些細な諍いが、ついにはどこか、かの国の内戦を想起させる衝突に向かう。画面には老婆の姿をした死神が徘徊し、唐突で、しかし確固たる意思にもとづく暴力が人を傷つけていく。その騒動を動物たちは静かに見守って、全体に神話的な雰囲気が色濃くなる。

コリン=ファレルとブレンダン=グリーソンが、それぞれの頑なさと執着で押し問答をしているだけの話が、もちろんそれだけにとどまらないのがマーティン=マクドナーの映画というものである。本作はもともと、先行する舞台劇の続きとして構想されていたという話だけれど、水平的な島の風景は映像としてもなかなか見応えがある。

キル・ボクスン

Netflixで配信の始まった『キル・ボクスン』を観る。チョン=ドヨンが殺し屋を演じるアクション映画。このチョン=ドヨンは『イルタ・スキャンダル』よりも圧倒的に格好よくて、凄みと美しさが同居する。冒頭、関西ヤクザの怪しい日本語から始まる異界な雰囲気に、凝りに凝ったグラフィックがのってくるあたりで傑作に違いないことは明らかとなり、『ジョン・ウィック』をさらにノワールに寄せた感じの世界観がまた楽しい。『キル・ビル』よりもこっちの影響が明らかのようにみえるのだが、根底にあるのはアジア的な情念というのがいい。

高度に計算されたアクションとカメラワークが堪能できるので、137分の尺がまったく長くないのである。チョン=ドヨンが撮影中に負傷して制作が一時、中断していたという話だけれど無理もない。

無垢なる証人

『無垢なる証人』を観る。2019年の韓国映画。事件の目撃者となった自閉症スペクトラムの少女と、自分の仕事に鬱屈を抱えた被告側の弁護士が親しくなる。少女の目撃証言の証拠としての能力を覆そうとする裁判のなかで、弁護士は被告の言動に疑いをもち、職業的な葛藤をも抱えることになる。

自閉症スペクトラムを題材としたドラマがさすがに多すぎるのではなかろうかと思うけれど、演じたキム=ヒャンギの仕事は素晴らしいものだし、この少女の話が『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』を生んだという気がしなくもない。

法廷ものとして悪くない仕掛けが施されていて、生きづらい社会にあっても、全ての生まれてきたものや、良く生きようとする人を祝福しようというという脚本の意図は明確で、全体によく出来ている。主演のチョン=ウソンは、本邦なら福山雅治という印象で、ひたすらいい男というほかない。

ナイト・エージェント

Netflixで配信の始まった『ナイト・エージェント』を観る。映画かと思っていたら全10話のシリーズで、冒頭からアクションを奢ってくるので、かえって嫌な予感がする。シーズン2に続いても不思議はないという感じに大きく広げられた陰謀の雰囲気は、懐かしい『24』を思い起こさせる。国内で活動するエージェントが危機に陥った時にかけてくるホワイトハウスの直通電話、その電話番のFBI捜査官が主人公という設定はいいのだけれど、もちろん話は要人のなかにいる裏切り者を巡って展開する。第3話まで観て、ぼちぼち消化していこうと思っているところ。