フレンチ・ディスパッチ

『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』を観る。いかにもという感じの長いタイトルだが、ウェス=アンダーソンの2021年の映画。相変わらずシュールなウェス=アンダーソン節だけれど、美術はとにかく手が込んでいて見応えがある。常連の俳優もひと通り出演している感じ。例によってアメリカ人らしからぬ作家性はいいのだけれど、103分がやや長く感じるのは、アクの強さが影響しているのかも知れない。結局のところどの作品でも同じことをしているような気がしなくもないが、精巧に設計され発見が多い画面である。このレイアウトと色彩設計だけでも映画らしい映画なのである。

三連休最終日。この休みにニュースを見ると、日本各地で3年ぶりのイベントが行われていたようだけれど、大して状況が変わらないのに年季明けみたいな感じになっているのは、実に人の世という気がする。これもまた適応の一形態だろうけれど、いろいろに目を瞑っているだけだということは理解しておく必要がある。

ウェアウルフ・バイ・ナイト

Disyney+オリジナルの『ウェアウルフ・バイ・ナイト』を観る。マーベル・コミックス初期の作品に遡るキャラクター、ジャック=ラッセルをガエル=ガルシア・ベルナウが演じている。尺は54分で中編程度だけれど、類型的にわかりやすいキャラクターが物語を進行して、最終的には意地悪な継母が成敗されるというシンプルなストーリーなのでちょうどいい感じ。

見どころは古典的なホラー映画へのオマージュがわかりやすい画面で、キーアイテムとなるブラッドストーンだけが赤く輝くパートカラーはMCUらしくよく作り込まれている。登場するモンスター、マンシングの着ぐるみ感もいい。マーベルユニバースの常連になれば、そこそこ人気が出るのではなかろうか。

iPadのSafariでvscode.devを使ってみる。以前、少し弄ったことがあったのだけれど、同期機能をオンにするとローカルの設定に合わせて動作してくれるのはクラウドらしいメリットと見えて感心する。全てではないとしても、拡張機能まで使えるのである。GitHubのレポジトリをクローンすれば、ほとんどどこでも使えるということで、ここまで便利であれば進んで囲い込まれようということにもなろう。

すべて忘れてしまうから

『すべて忘れてしまうから』の第4話を観る。物語の筋があるのかないのか、よくわからないエピソードの積み重ねに実は因縁があることが判明する流れが、どこか村上春樹の小説を感じさせるのだけれど、阿部寛の間合いは固有のもので、しみじみ面白い。ゲストアーチストはミツメで、制作はやはりインディー志向なのだが、その雰囲気がいい感じ。

この日、本邦の首相が自身の息子を公設の首相秘書官に起用するという話が聞こえてくる。非常にわかりやすい縁故主義の表れであり、わかりにくい「新しい資本主義」は結局のところ縁故資本主義の新たなかたちであったかと腑に落ちる。財閥を中心とした資本の蓄積というより、民主主義の制度どころかカルトまで利用した世襲と人的なつながりによって国家の蓄積を喰いものにしようというのがこの Crony Capitalism の実相で、語義本来のイメージで、徒党による経済支配は既に完成しているのではなかろうか。

効率的な資源配分を阻害し、経済格差を助長するという特徴は現在の日本の姿と矛盾せず、分断が崩壊をもたらさないのであれば、国民は長く苦しむことになるだろう。ひょっとするとさして取り柄のない財閥の再形成に向かおうというのが、この国の現在地ということになる。

散り椿

『散り椿』を観る。葉室麟による時代小説の映画化。主人公の瓜生新兵衛を岡田准一が演じ、オールロケーション撮影によるリアリティのある画面と切れのある殺陣が相俟って迫力のある映像になっている。監督と撮影は黒澤組出身の木村大作で、雪と雨のシーンにはびっくりするくらいの物量が投入されている。その作家性に加えて、玄人はだしという水準にある岡田准一の居合が見どころであろう。大したものである。

この日、国会では首相の所信表明演説があったのだが、この御仁はこの期に及び円安メリットを生かすなどと述べ、相場は145円台に回帰する。メリットのある円安であれば、さきに為替介入を行ったのはいったい何だったんだということであろう。「リスキリング」というバズワードも飛び出し、もとより厚生労働省は学び直しの講座助成を強化しているけれど、旅行業と同じく、利権化したキャリア産業の腐臭が酷い。この国の下り坂も随分と続いているけれど、まだ底が見えないというのは幸いというべきなのか。

ワーニング

『ワーニング』を観る。イ=イェジが主演の韓国製のホラー映画。いわくつきの自主製作映画を追う映画監督が、封印された謎を追ううちに恐ろしいめに遭う。イ=イェジが地味な眼鏡女子を演じるというあたりが趣向ということであろうか。こうなると高校生くらいにしか見えない。

全体にファウンドフッテージスタイルの映画ではよくある演出なのだけれど、恐怖に共鳴していく描写はそれなりに怖くて悪くない。なぜ恐ろしい事情に立ち入ろうというのかという主人公の動機の設定がきちんとされている話はそれほど多くないと思うのである。結果、面白くなっているかといえば、かなり微妙なところはあるとして。

この日、チェチェンのカディロフが国境付近での核の使用に言及する。母国をロシアの傀儡とし、率先して非人道的な振る舞いを続けるこの男の死に様に興味がある。

ゴールデンスプーン

Disney+で配信の始まった『ゴールデンスプーン』を観る。金の匙というタイトルで、韓国の階級社会を正面から扱おうというドラマである。かなりの鬱導入なのだけれど、ユク=ソンジェが簡単に折れない雰囲気のある主人公を演じていて何だか見入る。原作はウェブトゥーンらしいのだけれど、貧乏な家の子供と金持ちの家の子供が金の匙の力で入れ替わるという話を大真面目にやっているのがポイントであろう。格差社会ものというのは韓ドラの一ジャンルとして確立していると思うけれど、現在配信中のものでは『シスターズ』の評判がいいのでこちらも観てみるつもり。

この日、BBCはエリザベス女王の国葬費用13億円に対して安倍16億円の概算という内容のニュースを伝える。比較対照は実証の基本だが、ここに可視化されるのは民主主義のレベルの違いであろう。

マトリックス レザレクションズ

『マトリックス レザレクションズ』を観る。『マトリックス』シリーズにはさしたる思い入れもないし、148分の長尺もハードルでしかないのだけれど、何となく観てみようかという気になる三連休最終日。

三部作の続編ではあるけれど、単独の作品として扱われ、続きものにする予定はないみたい。『リローデッド』と『レボリューションズ』が2003年だからほぼ20年経ち、シミュレーション世界のアイディアでも今や古典のようなものなので驚きは少ない。それゆえ、モーフィアスとスミスという主要な役柄で、オリジナルのキャストを変更した理由に興味は募る。ただの野次馬なのだが、リバイバル感の強い続編の同窓会的な雰囲気に違和感を持ち込んでいるのは、そのあたりの大人の事情なのである。

この数日、世界はCOVID-19の収束を語り始め、本邦においてもオミクロン以降の重症者の減少を理由としてモードの変化を唱える向きがあるけれど、死亡者数は第6波のピークと変わらず推移しているのだから、重症化を経ずして亡くなる傾向があるということだろう。毎日数百人にのぼる死者と、それを上回る数の超過死亡を受容しようというというのが方針で、それはイギリスやアメリカでは既に行われていることでもある。そう説明がないのは何故なのか。

この日、台風14号は九州を縦断して中国地方にかかる。明日には北陸から東北の太平洋側に抜ける予想となっているので、この地で風が強まるのは夜半のことになるだろう。