アウトポスト

『アウトポスト』を観る。アフガニスタンの米軍の前哨基地で起きたタリバンとの戦闘に材をとった2020年の映画。舞台となるキーティング基地は深い谷の底、山に囲まれた戦術的な劣地にあって、非対称戦だとしても分が悪くみえるのだが、案の定という感じでタリバンの大規模な攻撃を受け激戦となる。アフガン版の『ブラックホーク・ダウン』という印象だけれど、この戦闘を決着させるのはB-1からの近接爆撃で、何かと荒っぽい。7人の米兵が亡くなっているのだが、タリバンの側は岩陰からわらわらと現れるNPCのような扱いで描かれ、前述の印象に繋がっている。そもそも何のための戦いかがよくわからないというのは、たぶん現実の写しであり、結局はこの国から撤収することになったのもわかる。

台風14号は猛烈な勢力を保ち九州南端へ。接近時には920hPa程度の中心気圧になるということだが、第二室戸台風や伊勢湾台風と似たような勢力というから、引き合いに出されるのも歴史的な被害をもたらした台風なのである。飛来物が凶器となる風速50mの予想で九州を縦断することになる。早々に特別警報が出される。

四畳半タイムマシンブルース

『四畳半タイムマシンブルース』のepisode 1を観る。劇場版の公開に先立って、Disney+では何回かに分けたエピソードとして配信をするみたい。監督は湯浅政明から夏目真悟に変わっているけれど、アニメーション制作はサイエンスSARU。CV 浅沼晋太郎の「私」の語りで進行する物語はイノタミナの『四畳半神話大系』をそのまま想起させるもので、アニメでもこのような続編を鑑賞することができようとは。あれから10年以上たっているのである、まったく驚くべきことに。

脚本は上田誠。込み入った話であるからには原作とほとんど同じ展開をなぞる。本編は第5話までの構成で、第6話は配信限定のオリジナルエピソードになるという。第1話は31分で、小津が時間を往還してタイムトラベルを確認するあたりまで。

すべて忘れてしまうから

Disney+オリジナルのドラマ『すべて忘れてしまうから』を観る。阿部寛がいつもの演技プランでミステリー小説を書く作家Mの役を演じ、馴染みのバーや喫茶店を舞台にしながら物語が進んでいく。第1話では、尾野真知子が演じるFの失踪が語られ、奇妙な姉として酒井美紀が出てきて「まさかと思うけれど、殺してないですよね?」と、エピソードタイトルになっているセリフを吐くのがハイライトだけれど、全体には導入にあたっての説明となっていて、どう転がっていくのかは予想がつかない。

まず、キャストの分厚さがディズニーの本気を感じさせるのだが、ノイズののった画面と、ちょっとした違和感を増幅させる演出は、どこか鈴木清順の映画を想起させて楽しい。突出したセンスのみが実現できるバランスが表出していると思うのである。30分程度の尺で毎週配信ということだから、しばらく観てみるつもり。

ジョイ

『ジョイ』を観る。ジェファー=ローレンスが実在の女性実業家を演じ、彼女が発明を事業として立ち上げようと奮闘する様子を描く。『世界にひとつのプレイブック』のデヴィッド=O・ラッセル監督が、ジェニファー=ローレンスとブラッドリー=クーパーを再び起用した映画。ジェニファー=ローレンスの雄弁な無表情を実にうまく撮っていると思うのである。

シングルマーザーのジョイが家族の世話に明け暮れ、男どもは勝手なことばかりしているのだけれど、ジョイがショットガンをぶっ放すシーンや、ほとんど囁くように言う”I can’t accept your answer.”と言うセリフのかっこよさにはシビれる。父親を演じているのがロバート=デ・ニーロで、冒険的な演出はジョイが生きているのが不思議の国であることを教える。尋常でなくタフな彼女は、しかし紛れもなく家父長制の抑圧の犠牲者であり、抵抗者なのである。それを意図的に描いているあたりがとてもいい。

WE GO ON

『WE GO ON』を観る。アメリカ製の地味な感じのホラー。死後の世界を証明しようとする男が新聞広告を出して有望そうな相手を訪ね歩くが、やがて恐ろしい目にあう。お金もかかっていないし、何を好き好んでというところもあるけれど、幽霊は実在して現世風のオチもつくのでそこそこ楽しめる。尺が短いのも美点のひとつといった作品だけれど、B級らしく見たことのないキャストながら、主人公がイチローに似ていて、そのことばかりが気にかかる。母親がバディ役という配置も珍しい。

この日、エリザベス女王の健康状態が懸念されるという一報が流れ、霧深いバルモラル城に王族が集まる。

ナイト・ハウス

『ナイト・ハウス』を観る。湖畔の家に深い失意を抱えたまま残されるという状況の映画がときどきあって、『メッセージ』のエイミー=アダムスの佇まいも結構好き。本作はレベッカ=ホールが夫に死なれた女性を演じているけれど、物語の進行に従って状況が徐々に明かされていく手つきがスマートで、錯視によって何者かの存在を感じさせる不穏な演出と相俟ってサスペンスを盛り上げる。ストーリーそのものが反転の構図を持っていて、よく構築されている。とはいえ、明らかなカタルシスのある種類の話ではない。

夕方からの結婚式に招かれ軽井沢へ。山越えの天候は不安定だったのだけど、中軽井沢に向かっている途中では山を背景にして大きな虹を見る。星野リゾートによる今様の披露宴というのは、いろいろと手の込んだもので、まぁ、大変なものだと思ったことである。夜半、復路は大雨となってセンターラインを頼りに山道を走る。

アンダーウォーター

『アンダーウォーター』を観る。クリステン=スチュワートが主演の極限状況もの。深度1万メートルに建設された海底掘削基地が地震により損傷し、取り残されたクルーたちは別の基地に向かおうとするが、得体の知れない生命体が出現してこれを阻む。私企業が極地開発をおこなっている設定と現場の雰囲気は『エイリアン』そのままで、深海に舞台を替えて換骨奪胎を試みようという企画の趣旨は明確だし、速やかに外壁が破断しリグが崩壊していく冒頭のシークエンスは緊張感があって観入る。

謎の生物ではなく圧力によって失われていく仲間という進行も悪くないのだが、原子炉を装備した深海基地が圧壊したり、海底を歩いて移動したりという基本的な設定は、さすがにいかがなものか。水圧の扱いが都合良く見えるので、科学考証にも疑義が残る。一方で存在感控えめかと思えたクリーチャーが、エイリアンでもプレデターでもなく、クトゥルー的なイメージにスケールアップしていく終盤は素晴らしい。なるほど、やりたかったのはこれかと膝を打ったものである。

『鎌倉殿の13人』はサブタイトルが「修善寺」となった第33回。これを「終 善児」と読んだ勘のいいTweetがあったのを思い出して感心したのである。