マリグナント

『マリグナント』を観る。ジェームズ=ワン監督の原案によるホラーサスペンスということであれば、通り一遍のサイコホラーであるはずはないと思いながら、どうしたってサイコロジカルな解決に向かうだろうという予想をさせておいてからのフィジカルな解決には、ちょっと笑う。さすがなのである。

主人公のマディソンを演じるアナベル=ウォーリスの腺病質な雰囲気も、そのまま観客のミスリードに効果を発揮していて、全体がよく巧まれている。冒頭から脈絡の見えない急な舞台展開が続くのだが、きちんと回収されるし、警察署を舞台にしたクライマックスもやり過ぎ感があっていい。今や廃虚となった医療施設で行われていた実験の因縁を扱うホラー映画のジャンルがあるけれど、今になってこれに新たな形態を付け加えたという意味でも手柄ということになろう。面白い。

ルビー・スパークス

久しぶりに『ルビー・スパークス』を観る。この映画から、もう10年も経つと思えば遠い目になるというものだけれど、ライターズブロックものの映画としては以降、これを越えるものは出ていないわけである。閉ざされた世界のはなしであることは違いないので、今なら多様性のなさ自体が忌避されるような気はするものの、好きなものは好きなのである。

『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は大団円手前の第14話。相変わらず脚本のバランスがいいので安心して観ていられる。本国でも人気という話を聞くので、これはシーズン2も考えてもらえないだろうか。

プレデター ザ・プレイ

『プレデター ザ・プレイ』を観る。『プレデター』を遥か過去に遡る前日譚で開拓以前のアメリカが舞台。賢い犬の出てくる映画は好きだが、コマンチ族の話にしては妙にアメリカナイズされているので、話の半分くらいはそっちにもっていかれてしまう。話がすすむにつれて違和感が薄れ、ネイティブアメリカンだけでなく野蛮な入植者の一群が狩りを仕掛けるあたりからは、それなりに面白いと思ったものの。無論のこと基本的にはお約束通りの展開なのだが、あまり回りくどいところがなくていいのではなかろうか。

ラストでカメオ的に登場するのが『プレデター2』でダニー=グローヴァー演じる刑事が受け取ったフリントロック銃である。アメコミではプレデターはそれなりに人気がある一派を形成していて、『Predator 1718』という作品にはこの銃の持ち主であるラファエル=アドリーニその人が登場するらしいのだけれど、時系列と刻印の内容からして本作がそれより後の話ということであれば、プレデターがこれを回収する一幕があったことになる。

カーター

『カーター』を観る。記憶喪失のエージェントが闘いながら情報を収集し、ミッションを達成していくPOVスタイルの映画で、結果としてAAAのゲームを早送りでプレイしているよう。アクションもカメラワークもそれを意識したものになっていて、やたらと人が死ぬし、なにかとえぐい。ここまでゲーム的な表現にこだわった映画は珍しいのではなかろうか。ストーリーもゲームシナリオとして誂えたようなもので、原作となっている作品があるのではないかとさえ思ったものである。2時間以上の尺をそんな感じに徹底的に作り込んでいるのは立派という他はないが、忙しない画面には酔うし、まぁ、やたらと長く感じる。

ムーンフォール

『ムーンフォール』を観る。地球に最も近い天体で、太古からこれを見上げつつ、多くのパニック映画が月の落下を題材にして来なかったのは、人類があっさり絶滅することなく、いろいろあってもめでたしめでたしという展開が、そうそうないからだと思うのである。松本零士がロッシュ限界を超えて地球にめり込む月のヴィジュアルを幻視していたことを懐かしく思い出す。

本作は月の空洞説を正面から扱って結果、いろいろとハチャメチャなことになっているけれど、ローランド=エメリッヒのパニック映画であれば、許されるのではなかろうか。あらゆる距離が適当で、ご都合主義が赤面するほどの展開はまぁ、指弾されて当然として。『インデペンデンス・デイ』がありならこれもあり、という開き直りはあっていい。パニック映画の体裁ではあるものの『デイ・アフター・トォモロー』というより、どちらかといえばそっち方面の話。

本作を真性の駄作たらしめているのは登場人物の魅力のなさで、感情移入ができないので、結局はなんなんだこれはということになる。異常な高波でホテルの上層階に避難して、助けが来るまでベッドで熟睡しているというちょっと異様な展開があるのだけれど、その一事が万事なのである。パニック映画の要諦は危機が明らかになるまでの展開だと思うのだけれど、グダグダとしかいいようがない。

チャンシルさんには福が多いね

『チャンシルさんには福が多いね』を観る。韓国の映画界を舞台に、長年支えてきた監督の急死によって道に迷うチャンシルさんの日常を描く。ままならない人生の話だから甘くはないのだけれど、テンポがよくてわかりやすい演出なので悪くない。チャンシルさんは小津安二郎のファンなのだけれど、画面には日常系の邦画の雰囲気が濃く漂って、演じるカン=マルグムは小林聡美のような役回り。95分程度の尺でいろいろちょうどいい感じ。

この前日、WHOはサル痘の流行を国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態とする宣言を出す。専門家の意見はいまだ割れているようだけれど、基本的には接触感染であるこの疾病の感染者が、米国では1ヶ月に18倍というスピードで2,600人といわれると、いったい何が起こっているのかとやや怯えざるを得ない。今回の流行では、従来と異なる臨床兆候が指摘されていると聞けばなおさら。

20時過ぎ、桜島が噴火。

グレイマン

『グレイマン』を観る。マーク=グリーニーの小説の映画化。とはいえ、『ボーン・アイデンティティ』の原作がロバート=ラドラムであるというくらいの話で、キュアラクターもその関係性もかなりシンプル化されていて、原作料の部分は省くことも可能だったのではないかと思えなくもない。そこはそれ、大人の事情があるのだろうが、Netflixオリジナルでも史上最高となる2億ドルの制作費はさすがというべきで、派手なアクションには手を抜いたところがなく密度が高い。プラハでの市街戦のシークエンスは大きな見どころ。

クリス=エヴァンスがロイド=ハンセンの役を演じていて、清潔感のあるサイコパスの役回りが新境地という感じでいい。一方、アナ=デ・アルマスは『ノー・タイム・トゥ・ダイ』と同じく、主人公を助けるCIAの現場エージェントを演じることになっているのだけれど、ファンからすると、制作サイドはよくわかっているということになる。いい。