囚われた国家

『囚われた国家』を観る。エイリアンに制圧されてから9年後、人類はその支配の下にあって地下資源の採掘に協力しながら生存を許されていた。幾度かの抵抗の企てに失敗しながら地下組織は同胞の追跡を逃れて活動を続け爆破テロに成功したが、といった筋書きの侵略もので、抵抗活動の描写に補助線が描かれていくことで、ことの全貌が明らかになる。ジョン=グッドマンやヴェラ=ファーミガが渋い役柄を固めて、わりあいよく出来たエスピオナージュのような味わいがある。観る者を選ぶとは思うけれど、悪くない。2019年の映画なので、当然のようにトランプ政権下の状況についての政治的含意があり、2期8年の可能性すらあった当時としては一層、重い文脈をもって解釈されていたわけである。ポスト・トランプの世界がマシであるという以上によいものであると、言うことができる人間は少ないとして。

五輪の開催に異を唱えないのは政府と主要メディアだけではないかという異常事態に、野党共闘は6月解散のシナリオも想定しているというニュースがあって、オリンピック返上と同時に一か八かの解散総選挙という目が出てきたのではないかという気がする。是非はともかく、インドがそうであったように、総選挙は感染を一層、拡大するであろう点が気がかりではある。

HELLO WORLD

『HELLO WORLD』を観る。野崎まどが脚本の2019年のアニメ。CGの違和感は冒頭あたりで感じるけれど、すぐに慣れる。Wikiの記述では2016年の段階で完成段階にあったSF要素の濃いシナリオが、『君の名は。』のヒットで再検討となり、エンターテイメント要素の強いものに練り直されたということである。狙われた二匹目のドジョウという雰囲気は確かにあって、これはかえって残念な結果となっているのではあるまいか。とはいえ、ストーリーの仕掛けは実に野崎まどらしいと思ったことである。

COVID-19による重症者の数は過去最多となり、日曜日だというのに引き続き多くの感染確認が報告されている。ことにマラソンのテスト大会のあった北海道は連日最多を更新して減速の雰囲気すらない。全国的にも変異株のモードに対応できていないうえ、自粛には逆の同調圧力すら働いている様子で、いよいよ死者の数に現れ始めるのではないかという地点にある。

いなくなれ、群青

作業をしながらNetflixで『いなくなれ、群青』を観る。原作の小説は未読。舞台にもなっているらしく、そういう雰囲気はある。『1999年の夏休み』をちょっと思い出したけれど、ライトノベル感が強すぎて「ながら」でなければ途中で投げ出していたと思うのである。まず、タイトルありきということでよろしいか。

発出の時からわかっていたことではあるけれど、3回目の非常事態宣言がとりあえず月末まで延長になり、ワシントンポストには追い剥ぎ、簒奪者とまで言われたIOCのバッハ会長は、オリンピックと緊急事態宣言は関係ないとまで言って顰蹙を買ったが、17日の来日はなくなることが取り沙汰されている。

ここにきて新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長は抗原検査とPCR検査の広範な実施を唱えているようだけれど、今さら広島の大規模検査の知見をひいて、わかったことがあると言われても戸惑いしかない。わざわざ抗原検査を行う理由は、利権絡みで買ってしまった在庫の消化であると理解した方がしっくりくるし、そもそもいまだにPCR検査能力を希少資源にしておきたいのは何故なのか。

そして河野大臣の1日80万回という接種目標も方法が煮詰まらないうち、総理大臣は1日100万回と言う。既に在庫となっているファイザーのワクチンは6月末には有効期限が切れるという話もあるくらいだから、いずれそうしたペースで消化しなければならないとして、この無能によってまたしても現場が割を食うことになる。

パーマー

『パーマー』を観る。これもAppleのオリジナル映画で、ジャスティン=ティンバーレイクがかつて罪を犯し故郷に戻ってきた男を演じている。よくある再生の物語ではあるものの、故あって預かることになったジェンダー・ノンコンフォーミングの子供サムの面倒をみるうち、そのあり方を全肯定して自分も立ち直っていくというあたりが時代を写しとっており、質の高いドラマになっている。ジャスティン=ティンバーレイクもいいが、こうした物語がいつもそうであるように、サムを演じた子役のライダー=アレンが負けていない。才能というのは次々と出てくるものである。『テッド・ロッソ』でキーリーを演じているジュノー=テンプルがサムの母親で出演している。佳作。

日本のワクチン接種率がOECD37ヵ国の最下位であることは既に広く知られているけれど、軍によるクーデターで社会が混乱しているミャンマーよりも遅れているとなれば、やはりどうかしているのではないかと思う。自衛隊による大規模接種の成否は自衛隊次第とかいうコメントをするのがワクチン担当大臣である以上、好転は見込めそうにない。県内の小規模市町村は高齢者の接種が完了するのが8月の計画で進めているというニュースを見たのだが、世界のスピードからいえば周回遅れならまだしもというのが本邦の実力で、丸投げによって事の成否はそれこそ各人の努力次第というのが宿痾のようになっている。個人の能力差はせいぜい10倍、チームであれば2000対1の開きになるという論でいえば、国家としての組織能力は三桁のイメージで劣後しているであろう。

テッド・ラッソ

Apple TV+は引き続きじわじわという感じでコンテンツを増やしていて、Netflixあたりと比べればそのスピードははるかに緩やかであるけれど、Appleの哲学と基準に従って良作が多いのは間違いない。問題は、Big Surでよくなったのではないかと期待していたmac OSのTVアプリの完成度が相変わらず低いことで、インターンに作らせたと揶揄されたレベルからどうやら改善していない。オーディオのデフォルト設定の変更方法がトリッキーすぎるというのはmac OSの思想的問題だとして、再生中にたびたび落ちるというのは不具合だと思うのである。

そんなわけで、Apple TV+のコンテンツ消化はあまり進んでいなかっったのだけれど、シーズン2がじき始まるという話を聞いて『テッド・ラッソ』を通しで観る。最近では前向きでウェルメイドなコメディはあまりないので、これこれと思いつつ、最後まで。1話30分の伝統的なフォーマットというのもいい。

隔たる世界の2人

Netflixで『隔たる世界の2人』を観る。今年のアカデミー賞で短編実写映画賞を受賞した本作は、30分足らずの作品だけれど、黒人の主人公が白人警官に殺され続けるループにハマってしまうタイムループものの体裁を借りて、システミックレイシズムの構造を重ねたメッセージ性の強い内容をもっている。ジョージ=フロイドさん殺害事件を画面のなかで直接に引用している部分もあるし、結末には警官と行き合ったばかりに殺されてしまった人たちの(ごく一部の)名前が挙げられているので誤読のしようもないのだが、アンドリュー=ハワード演じる白人警官が主人公を絞め殺す場面の、現実がそうであったろう悪魔的な形相には震える。もう一段の底が用意された物語の仕掛けは仕掛けとして、構造的な絶望感こそ一番の見どころではあるのだが。

さきに5,000万回分を超える日本向けのCOVID-19ワクチンがEUによって輸出承認済みだとブルームバーグが報じた件について、この内容を正しいとした上で、日本での接種の遅れに不満が高まっているという続報が出ている。ロジスティクス軽視という旧軍以来の伝統に則り、下手をすると賞味期限内に在庫のワクチンを打つことができないという笑えない事態にもなりかねない。何しろ鳴り物入りの東京の大規模会場では1日1万人に接種を行う構想だそうだが、23区内の人口だけでも900万人を超えるのである。いうまでもなく。

ここにきて泥縄式に体制を作ろうとしているのが本邦の状況だが、ワクチン開発が始まって1年、その到来を待つ間に何をしていたのかと考えれば、悪夢のような無能と言っても不当な評価とはならないのではあるまいか。

新感染半島 ファイナル・ステージ

『부산행』を「釜山行き」でも「Train to Busan」でもなく、『新感染』というタイトルにしたときには、まさか続編が出るとは思っていなかったのだろうが、『新感染半島 ファイナル・ステージ』とよくわからないスケールアップを果たした『Peninsula』を観る。

たった1日で国家の機能を喪いゾンビの支配する地となった韓国に、かつて逃げ延びた男が戻って因縁めいた再会によってある家族を助けることになる。光と音に敏感で群がってくる今風のゾンビは、しかしちょっと後景化して、ゾンビより怖いのは人間というよくある話になっている。それはまぁ、いいとして、軍隊崩れの徒党の組み方に工夫が見えないのはどうなのか。『AKIRA』のエピゴーネンの域を出ていないようなのは、ちょっと残念。