宇宙へ

ハヤカワの近刊でメアリ=ロビネット・コワル『宇宙へ』を読んでいる。1952年、アメリカ東海岸を壊滅させた隕石が環境の激変を引き起こし、人類は生き残りをかけて宇宙開発に取り組む。歴史改変テーマのSFとして題材では『フォー・オール・マンカインド』を想起させるけれど開巻から甚大な被害が描かれて、アポカリプスファンとしても満足度が高い。恐るべき温暖化が予測されるロジックについては今のところ十分な説明がなく、エネルギー保存則に照らしてどうなのかという気がしなくもないにして。

『フォー・オール・マンカインド』だけでなく『Hidden Figures』を想起させるセクシズムやレイシズムの文脈もあって、どちらかというと映像的な雰囲気であり、作者の公式ウェブサイトをみると”Lady Astronaut”という(ちょっといかがなものかという)シリーズで三部作くらいになっているみたいなので、ゴリゴリのハードSFではないということには薄々気づいている。まぁ、それぞれの花ありてこそ野は楽し。

駆逐艦キーリング

『グレイハウンド』が面白かったので、原作となったフォレスターの『駆逐艦キーリング』を読んでいる。トム=ハンクスの脚本はかなりうまいこと整理されており、原作のおいしいところはすべて盛り付けてある印象で、やはりなかなかのものである。

大きな改変は艦の名称、そして割愛されている大西洋の凍てつく寒さというところ。いかな最新のVFXとはいえ、気象描写については小説の奥行きが勝り、コーヒーとサンドウィッチもこちらのほうが圧倒的に美味そうなのである。

黒暗森林

『三体II 黒暗森林』を読み終える。かなり時間をかけて読了ということになったのだけれど、トリロジーの3作目が出てくるのが来年ということであれば一気に読んでしまうのは勿体ないというものである。

前作を受けて始まる内容は評判通り太陽系のスケールに拡大して陳腐とならず、フェルミのパラドックスを正面から扱って論理的帰結としての宇宙観を提出してくる構想力には感服する。そして、劉慈欣がどうやら『銀河英雄伝説』のファンらしいことにも好感を持たざるを得ない。

講談社のWeb上の連載企画で『図書館の魔女』の掌編が掲載されている。2,800文字程度のごく短い場面に、あの登場人物たちを想起させるあれこれがみっしり詰まって、しかしその名が呼ばれることはないファン向けのストーリーで、続編飢餓の状態にある層としてもとりあえず喜んでいる。

『霆ける塔』を早くと念じつつ、今さらジタバタしても仕方ないといえば仕方ない。我々の「令和元年吉日」はまだ到来していないのだが、そうはいってもさすがにオリンピックの頃までにはと、そういえば年の始めころには思っていたような気がする。

黒暗森林

Rebuild.fmのAudrey Tang回を聴いていて『三体』の続編『黒暗森林』が6月18日発売であることを知る。そういえば、ほぼ一年前に『三体』を読んで、続きを待望していたのだが、待っているうちに待つことが常態となり、やがて待っていることさえ忘れていたのである。こちらはあらかじめ2020年の刊行が予告されていて、予定通りなので文句をつける筋合いではないとして。『図書館の魔女 霆ける塔』は2016年の予定から5年近く待っていることを、ことのついでに思い出す。令和元年吉日刊行という話もありました。

すかさず『黒暗森林』上下巻の予約を済ませ、『三体』の再読に入るか思案している。ルシア=ベルリンの『掃除婦のための手引き書』を読み始めていて、こちらも面白いので時間の配分を考えなければならない。

ペスト

時節に合わせてダニエル=デフォーの『ペスト』を読んでいる。『ロビンソン・クルーソー』のデフォーが17世紀のロンドンでのペストの流行に材をとって、体験者の視点からその顛末を記した体裁で、カミュよりも圧倒的に読みやすいのがちょっと意外で、コロナ後の世界から見ても人間の所業は変わらないという意味で実に面白い。

本邦の現在としては、特定警戒度道府県以外の34県での非常事態宣言を解除するという観測気球が上がっているのだけれど、だいたいことのついでに非常事態を宣言したという疑いがあるので、そういうことにもなるのであろう。

日本沈没2020

Netflixで湯浅正明監督が『日本沈没』をやるという話を知って歓喜する。小松左京の原作は無論のこと谷甲州による『第二部』や、さいとう・プロや一色登希彦による漫画、1973年と2006年の映画に至るまで、ついに沈まなかった『日本沈没』でさえこれを支持するものであれば。

勢い余ってノベライズまで買い求めたのだけれど、東京オリンピックが行われた世界でその直後から始まるこの物語は『東京マグニチュード8.0』に『DEVILMAN crybaby』を継いだような超絶展開で、原作原理主義の立場からは物議を醸すことになるのは間違いない。しかし、こちらとしては湯浅演出によってこれがどうなるのか既に楽しみになっている。