PALM

篭城4日目。県内ではいちど陰性となった患者が再度、陽性となるケースが出てきている。この病について分かっていることは実はまだあまりないのだ。八ヶ岳で救助された東京の会社員のCT画像に疑わしき影があって山岳救助隊が一時隔離の騒ぎとなって、山なら出かけてもいいよねと言っていた同僚のことを思い出す。いやはや。

犬の散歩を除いて外に出ることがない折り目正しい隔離生活が続いているのだけれど、コーヒーさえあれば、まず400日だって過ごせそうな気がする。NetflixとAmazon Primeはほどほどにして、PALMシリーズを読み返し始めており、思えばまだ伸たまき名義だったマンガを西呑屋あるじに借りて読んだのが30年以上も前の話だ。大河と呼ぶに相応しい質量のある物語を挙げるとすれば必ずこれは入ることになる。

逃げるは恥だが役に立つ

英国ではボリス=ジョンソンが退院後のメッセージを出してNHSに最大限の感謝を述べている。この災禍の中で評価を変えた指導者をひとり挙げるとすればこの首相で、死の淵を覗いたことで当人の世界観も少し変わったのではないかという印象を受けなくもない。彼の経験がこの後の政治姿勢にどのような影響を与えるか、非常に興味があるのだが、悪いことにはならないのではないかと思うのである。医療現場を知るということにかけてこれ以上の経験はないだろうし、結局のところ個人の教養の厚みがそれを活かすに違いない。

『逃げるは恥だが役に立つ』の第11巻を読む。平匡とみくりの結婚の物語も第一子の出産にて完結。真っ当という他ない理路を辿る会話劇は、しかし独特のリズムを内蔵して読み応えがある。あのドラマのヒットを受けた第二部がどうなるのかとも思ったけれど、結局のところ原作は原作独自の世界観を貫いて完結した感じ。いうまでもなく、これはドラマにするような続編ではないのである。

街の狩人

『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』の続編が出ていたので、これを読み始める。学界の異端児という設定の主人公はひとつ間違えると単に思い込みの激しい人間と見えなくもなく、そのあたりが微妙にスリリングで、もしかしたら途中で投げ出すことになるかもしれない。そこをエンタテイメントとしての面白さに留め置いているのは、うまいといえばうまい。

望郷太郎

必ず読むマンガは『3月のライオン』だけという現状ではあるものの、ポストアポカリプスもので『望郷太郎』というモーニングの連載が面白いという話を小耳に挟んだので、この第1巻を読む。

大寒波の襲来で文明が滅びた未来、500年後に冷凍睡眠から蘇生した男が中東から日本を目指すという設定で、まず、大寒波が来ているのに数ヶ月を冷凍睡眠でやり過ごそうとする動機の不可解さに若干の違和感はあるのだけれど、眼目は文明崩壊ののちに生き延びるところにあるので細かいことは言いっこなし。文明初期化という惹句には、なかなか気の利いたところがあると思うのである。端的には狩猟採集のレベルに適応してどのように生き延びるかという話なのだけれど、ハラリの文明史に通じる文脈も窺えて、絵に癖はあるものの導入は悪くない。続刊も読んでみるつもり。

罪の終わり

『ブラックライダー』に引き続いて、その前日譚となる『罪の終わり』を読んでいる。ポストアポカリプスはもちろん好きなのだが、アポカリプスはその上を行く。近代以降、これほど急速に自らの生息環境を破壊しようというホモ・サピエンスであれば、どんなアポカリプスフィクションも無上の説得力があると言わなければならないからには。

ブラックライダー

東山彰良の『ブラックライダー』を読む。コーマック=マッカーシーの『ザ・ロード』は小説もそれを原作とした映画も好きなのだけれど、同じような世界観を感じる本邦のこの小説をどうしてこれまで見落としていたのか己が不覚を恥じ入るばかり。ポストアポカリプスの物語はだいたい好みに入ってくるのだけれど、それを割り引いてもこれは傑作であろう。西部劇と出エジプトと絶望的に非対称な籠城戦の顛末によってキャラクターが立ち上がり、唐突に失われるこの世界を象る物語の力はどうだ。

霆ける塔

令和元年吉日に発売されるはずだった『図書館の魔女 霆ける塔』も結局、登場することなく本年は終わりぬ。いや、あと一週間はあるにして。なに、2016年から待っている身からすれば、この事態は織り込み済みと言わねばならぬ。

『ピルグリム』のTerry Hayesの新作は、少し前まで2045年発売予定という予約をAmazonで受け付けていたのだけれど、『The Year of the Locust』の本国でのリリース日は2020年9月3日に更新されていて、25年も予定が前倒されることもあるのだから読者というのは辛抱強くあらねばならないのである。その時分、レビュー欄の大半は”What a joke!”という反応だったとしてもだ。