野木亜紀子の脚本と土井裕泰の監督で映画化されるという『罪の声』の原作は未読だったので、その塩田武士の小説を予習している。グリコ・森永事件といえば同時代の話で、当時の状況に忠実だという事件の経過には記憶もあってリアリティの質は高く、30年前の事件を通じたサスペンスが十分に成立している。この長く入り組んだ小説を、どんな手際で映画の枠に収めるのか楽しみではあるのだけれど、星野源と小栗旬というキャスティングは意外といえば意外。
本
令和元年吉日
もともと2016年に発刊の予定だった高田大介『図書館の魔女 霆ける塔』はその後、地下に潜ってしまったかのように音沙汰がなくなり、今年5月、Twitterにオフィシャルアカウントが開設されたとき、プロファイルに「令和元年吉日発売」の文字をみて涙を流したものだが最近、この部分が書き換わって「続編『霆ける塔』についてお知らせします」となってしまったのは、つまりそういうことなのであろうか。嗚呼。
まほり
本日もまた紛れもなく令和元年吉日というわけで、予約注文していた高田大介の新刊『まほり』を読み始める。「少年は水飛沫の散る苔の砂防堰堤をどうにか登り切って濡れたシャツの裾を絞りながら」から始まる中上健次みたいな文体の厚みで、ミステリを供される幸せを噛み締めつつまず読む。
魔眼の匣の殺人
『屍人荘の殺人』に引き続いて今村昌弘の『魔眼の匣の殺人』を読んでいる。
文体は当世風で好みじゃないところもあるのだけれど、ミステリーとしてはフーダニットへのこだわりがあり、特異な世界観に即して整合的なホワイダニットが語られる正統派で、系統樹では有栖川有栖に近いのが明らかながら、精神としては笠井潔の矢吹駆シリーズからの流れもあるのではないかと思うのである。現象学的本質直観。そんなわけで『屍人荘の殺人』は案外、面白かった。
屍人荘の殺人
『屍人荘の殺人』を読む。鮎川哲也賞を受賞した小説でミステリーランキングを総ナメにしていたけれど、このたびの映画化のタイミングで文庫化されたみたい。電子書籍にあって文庫化とは価格改訂の別名に過ぎないとして。
内容はちょっとライトなところもある今風のミステリーだけれど、新本格からこっち多くの奇作を読んできた経験からしてもその手があったかという奇特な設定があってまずまず楽しめる。
シンギュラリティ・ソヴィエト
伊藤計劃の正系でありつつ、SFのバックグランドについてはより広い印象を受ける伴名練だけれど、見知った概念にスチームパンクな名前を誂えて見せる手管が遺憾なく発揮されているのが『シンギュラリティ・ソヴィエト』で、「労働者現実」から「党員現実」にシフトする描写にはシビれる。電車のポイントがいきなり切り替わって違う世界に連れて行かれる感覚は一流のもので大変楽しい。
なめらかな世界と、その敵
後れ馳せながら伴名練の『なめらかな世界と、その敵』を読み始めている。どうでもいいことだが、Mac OSのスマート変換は知らない間にハンナレンを変換してくれるほど賢くなっていて、魔法のようである。
小説のほうは2010年代を代表するSFという惹句があまり誇張にみえない超絶技巧で、例えば冒頭に配されている同名の短編では、あらゆる可能性からただひとつを選びとるロマンスの構造そのものが世界ごと構築されているという、何を言っているかわからないと思うけれど、言葉通りのセンスオブワンダーぶりでちょっとびっくりした。傑作であろう。