かつて仕事でメガトレンドの予測を整理していたときは、予測可能な未来として人口動態の前提を議論の出発点にしていたものだけれど、Wiredの記事で人口推計に異議を唱える論陣を張った『Empty Planet』の記事を読んで早速、iBooksでこれを買い求める。実に不勉強ながら人口増加予測に異議を唱える人口学者は多いらしいけれど、人口予測がある種のドクサであるとすれば多くのパラダイムが変動を要求されることになるはずで、そのインパクトは甚大というべきだろう。面白い。
本
雪の階
奥泉光の『雪の階』を年末の読書本として買い求め、これを読み始めている。奥泉光の小説は好き。二・二六事件前夜、女学生の失踪とその死の真相を友人が追うという話の導入から例によって念入りに構築されていて読み応えがあり、文章を読むこと自体が心地よい体験といえ、587ページの長大さは苦にならないどころか、もちろん長ければ長いほどよいのである。
3月のライオン 第14巻
『3月のライオン』の新刊を読む。新刊が出ると必ず読む漫画は今や『3月のライオン』だけとなっていて、前後編の2部構成となった映画も劇場まで足を運んだぐらいだから、それなりのファンなのである。もともとよくできた物語なのだけれど、このところ尻上がりに調子を上げている印象もあり、この巻ではついに『ハチクロ』世界とのクロスオーバーを実現したボーナストラックみたいなエピソードもあって何かと満足感が高い。
熱帯
森見登美彦の新刊『熱帯』を読む。AmazonのWebマガジンで連載されていたときには更新を楽しみにしていたものだが、おそらくはその掲載ペースも駄目押しとなって休息の時間が必要になったということだろう。改めて刊行された本作は前半に往時のエピソードを活かしつつ、全面的に再構成されて『夜行』の気配も加え奥行きのある話に生まれ変わっている。映像的な描写が実にうまい。
Amazon.co.jpには当時から佐山尚一著の『熱帯』が登録されているのだけれど、この仕掛けも時をおくことでますます面白味が増して「少し縦長のサイズで、表紙には赤や緑の幾何学模様がいくつか描かれ」ているあたりがとてもいい。
知ってるつもり 無知の科学
早川書房の近刊『知ってるつもり 無知の科学』を読む。いわゆる認知科学の本ではあるけれど、人間の思考が合理的なものではないばかりか個人の営為ですらないというこの内容は、事実に基づかない言説によって選挙結果までが左右される時節にあって尚更、腑に落ちる。「無知の知」が日常的な経験を踏まえた科学の言葉で語られるという体験は滅法、面白くて少し恐ろしいのだけれど、この先にあるのが悟りの境地というものではないかとも思えてページを繰る指が止まらない。
人類滅亡小説
『人類滅亡小説』をほとんど名前だけで買い求める。山田宗樹の新作小説ということだが、これほどまでにストレートに嗜好に訴えかけるタイトルがこれまであったろうか。人類が滅亡する話が好きである。
あわせて海野つなみが原作を担当しているアンソロジーマンガ『その日世界は終わる』も発売当日に購入して人類滅亡欲を満たす読書の秋。
多様性
ハヤカワのノンフィクションの電書セールがあって、これを大いに買い込んだせいで『人類と気候の10万年史』を読み終えるのが遅くなってしまったのだけれど、ブルーバックスのこの本は序盤から面白いにもかかわらず、尻上がりに話が壮大となってエピローグは気候の相転移がもたらす大変動とポストアポカリプスにおける生存戦略にまで考察が及び、そこに示されるランドスケープの大きさには脳が活性化される。こうした知性を育むためにこそ高等教育というものは存在するのであろう。