ブルーバックスで『日本列島100万年史』と『人類と気候の10万年史』を買い求めて、都合110万年という壮大な読書を楽しんでいる。ことに『人類と気候の10万年史』は単にヒストリーではなく、未だ人知の及ばぬ長期の気候変動について複雑系のモデルを参照しながら丁寧に語られるのでいちいち腑に落ちる。面白い。
本
IQ
ハヤカワの近刊『IQ』を読み始めている。作者のジョー=イデというひとは、これが処女作で、まずかっこいい名前だと思ったら日系のイデみたいなのである。「フランシス=フクヤマは従兄にあたる」という紹介があって、やっぱりいろいろかっこいい。「遅咲き日系人作家が生み出した、ロス黒人街の「ホームズ」」という解説のタイトルは端的に本作の説明をしているけれど、そう言われれば、本家の他にBBC『SHERLOCK』の影響もありそうでちょっと楽しみ。
巨大地震はなぜ連鎖するのか
『巨大地震はなぜ連鎖するのか』を読む。以前、崖長その人が日本列島の地震発生モデルについてのベストブックかもしれないとツイートしていて、これは読まねばなるまいと思っていたのである。熊本地震の解説に始まり、現在の日本が地震の活動期にあることを語ったあとで、南海トラフ巨大地震の発生メカニズムについての畳み込みなので、どうやら活動期の後半にあたる今後の数十年の間に南海トラフ地震を体験することになると、読むにつけ観念する仕様で、連鎖するがゆえに巨大地震は必ず到来するというのが論理的帰結ということになる。
女學生奇譚
『女學生奇譚』を読む。川瀬七緒というひとの小説は江戸川乱歩賞のデビュー作を読んだ覚えがあるのだけれど、選評で京極夏彦がひどくダメを出していたという記憶しかなかったのである。本作は『リング』みたいな惹句にひかれてほとんど予備知識なしに読みすすめ、ほとんど中盤も過ぎてからスーパーナチュラルな内容ではないのだということに得心がいったので、ある意味で作者の企ては成功しているのだが、それを楽しめるかは少し別の話。用意された真相について、昔なら毒を吐いていたに違いないのである。こちらも随分と丸くなった。
Kindleで講談社学術文庫のポイントセールをやっていたので『熊野詣』と『日本文化の形成』を買い求めて読む。
明日、君が花と散っても
『明日、君が花と散っても』を読む。柳瀬みちるという人の小説は初めてで、そもそも想定読者層にないことは明らかなのだが、それが何であれポストアポカリプスものは好きである。最近でいうと『パンドラの少女』ほど殺伐としておらず、『ステーション・イレブン』のような崩落感もないけれど、世界がやがて異なる様相で立ち上がるタイプのミステリでありロマンスでもあって、世界観を極端に広げることなくネタ一本で勝負しようという、ちょっとシャマランの映画みたいなところには好感がもてる。
ボートの三人男
ジェローム=K・ジェロームの『ボートの三人男』は長らく座右の書であり、丸谷才一の翻訳は翻訳者自身の作家性をすら感じさせる語り口で絶妙というほかないユーモアを湛えていると思うのだけれど、最近、新訳版が出ていると知ってちょっと興味を感じている。丸谷才一の翻訳に満足していたこともあって原典に当たるということをしていないのだけれど、その面白さは翻訳者の才能によって立ち上がっていたところもあるのではあるまいか。もちろんのこと、それを確かめるには新訳版を読んでみるのが手っ取り早いのだけれど、まず、その意義があるのかどうか。
われらはレギオン
ハヤカワの近刊『われらはレギオン AI探査機集合体』を読んでいる。AI探査機が宇宙を旅するという小説は本邦にもわりあい最近に『みずは無間』があって、フォン・ノイマンの考えた自己増殖型の無人探査機というのはなるほどSF者の琴線に触れるところがある。ホーガンの『造物主の掟』では異星からの文明の到来を期待したものだけれど、こちらから出かけて行かなければならなそうだというのが21世紀の気分だとして。
SF大会で事故にあって死んだエンジニアが死後冷凍保存を経てAIとして甦るという展開もそうだけれど、『火星の人』のアンディ=ウィアーと同じく、いかにもSFマニアという著者の素養を感じさせる処女作で、どうやら三部作となるらしい書きぶりは既に堂々としており密度が高い。面白い。