口訳 古事記

町田康の『口訳 古事記』をAudibleで聴いている。町田康の文体とリズムはオーディオブック向きではなかろうかという予感はあったけれど、『古事記』の内容と相俟って、これが無茶苦茶面白い。神代の物語はもともと支離滅裂に聞こえるところがあるけれど、ワレ、ヌシ、ヤツガレで語られるとそのおかしさがやたら際立つ。ナレーターがまたよくて、これは笑える。

恐怖を失った男

ハヤカワの近刊で、クレイヴンの『恐怖を失った男』を読んでいる。行きがかりで放浪を続ける元特殊部隊の男が、かつての上司の頼みで行方不明となった娘の捜索に乗り出すという設定からは、ジャック・リーチャーが確立したジャンルものとしての血統を感じざるを得ないけれど、そうした事前の予想を超えた大盛りの雰囲気で思わず笑みが漏れる感じ。心ならずも官憲とやり合うことになってしまうのがこうした物語の定めというものだけれど、三分の一を過ぎる前に2度の留置という成り行きである。

炒飯狙撃手

『炒飯狙撃手』を読んでいる。台湾を舞台とした警察小説であり、ヨーロッパの広域を舞台にしたスリラーアクションでもあって、ちょっと面白味のあるタイトルはこうした意外な組み合わせも連想させ、まず飯が旨そうという美点を際立たせている。退職目前の刑事が追う軍が絡んだ陰謀は、実際の軍艦汚職を題材にしているそうだけど、それ以上に飯のリアリティが全てを納得させていく感じ。面白い。

この日は羽田から北京に飛んで天津に移動。車の警笛が常に聴こえている。

デジタルボイス

Audibleで岩波新書の『感染症の歴史学』を聴く。はじめてAI音声で収録されたオーディオブックを聴いたけれど、ニュースのAI音声と同じく、ほとんど違和感のない発声なので、こうしたコンテンツが増加していっても不思議はないと思ったことである。一方で、俳優を起用した作品も多くなっているような気がするけれど、二極化がすすむのではなかろうか。

この日、イランの大統領の乗ったヘリが墜落したことが報じられ、追って搭乗者全員の死亡が確認される。中東の不確実性は高まる一方で何がどう転んでも不思議ではない。

昭和日記

青空文庫で『古川ロッパ昭和日記』を読んでいる。みっしりと書き込まれた日々の記録が、少しずつ変調して戦争に向かっていく。大きな流れのようなものが背後に立ち上がっていく様子が興味深い。稗史やオーラルヒストリーを好む所以だが、日々の細部の積み重ねがそれを生じているわけで、人生に一度きりの仕事だと思えば一層、感慨深い。

アーキタイプ

『両京十五日』を読み終える。いわゆる英雄の旅と西遊記を構成する物語要素に、陰謀と裏切りを加えて上等に煮込んだストーリーは結末まで隙間のない盛り上がりで実に面白かったのである。ことに敵役がその立場を替えながら物語の進行に果たす役割のかっこよさにはしびれる。読中、本邦なら浅田次郎といったあたりの手になる、特に出来のよい小説を思い起こさせる雰囲気があって、大河のような創作の繋がりはさまざまな枝をつくっていると感じたものである。

連休の合間のこの日、市場介入と思われる相場の急激な動きによって円はいったん153円の水準に戻すが、そもそも薄商いの状況でやや空威張りという気がしなくもない。シグナルを強調する効果はあったとして、それも一時的なものであろう。

両京十五日

このところ馬伯庸『両京十五日』を読んでいる。現在、第2巻の半ば、全体では75%の進捗といったところ。この中国産の小説は、明を舞台とした長大な冒険小説で何しろ滅法、面白いのでページを捲る手が止まらない。北京、南京を結ぶ運河を舞台に、王朝転覆の企みを躱し、それぞれの思惑を抱える一行が皇太子を助けながら時間制限のある決死行を展開する筋書きは、正しく明朝版の『深夜プラス1』といった感じ。因縁と呼ぶに相応しく入り組んだ設定が物語の奥行きを作り、定型と期待を外さない作法の良さもあって中華小説の完成度の高さに感心している。